第25話 L・O・V・Eホテルというところでは?

 考えても、答えの出ないことを考え込んでいる内に、車は地上に出たようだ。

 木々がたくさんある細い道 ー山道ー を走っている。

 そのまま細い道を5分ほど走ると、寂れた感じの、しかし一昔前に流行ったようなネオンがチカチカ光る建物の門を潜る。


 ここ……は?

 もしかして、もしかすると……L・O・V・E ホテルというところでは?


 今までの人生で、こう言った場所に全く縁のなかった私は、車の窓から恐々と外の様子を見た。

 イケメン王子、琉旺さんは、慣れた様子で車のハンドルを操って狭い構内の道をぐるりと回って、奥に一つ空いている駐車スペースに車を停める。

 車を降りた琉旺さんは、駐車スペースの前のビニール製のカーテンを閉めた。


 なるほど、こうすれば向こうから、こちらの様子は覗けなくなるのか。

 へぇぇ、これだけのことだけど、考えられてるんだなと感心している私に、外から、琉旺さんが手招きしている。

 降りてこいということらしい。


 シュウちゃんに無理くり引っ掛けて締めていたシートベルトを外すと、オドオドしながら車からそろりと降りる。

 琉旺さんが、そんな私の様子を可笑しそうに眺めながら、車からヨイショとシュウちゃんを下ろした。

 駐車スペースの奥にある小さな扉を重そうに開けると、スリッパを突っ掛けて、奥に入っていく。

 私も、琉旺さんの背中を追いかけた。


 

 初めて入ったホテルの一室は、驚異的にラグジュアリーな空間だった。

 一体何部屋あるんだろう?

 ドラマや、漫画なんかで描かれるラブホテルの内装とはかなり違っているように感じる。

 私の知識の中のラブホテルの部屋は、一部屋にベットも、ソファもテレビもあって、すぐそこにお風呂があるイメージだったけど……。


 ここは、玄関から続く廊下の奥にある扉を開けると、リビングスペースになっていて、大きくて座り心地の良さそうなソファと、木目の美しいローテーブルが置かれている。

 その下に敷かれているラグもどう見ても、それなりな値段のしそうな代物だ。

 さらに奥には、扉が3つ並んでいて、その手前の奥まった場所には、簡易のキッチンまであるようだ。


 琉旺さんが冷蔵庫から、ペットボトルの水を持ってきて渡してくれる。

「大丈夫か?陽菜子。いきなり抱き上げて走ったからキツかっただろ?」

 そう言いながら、私の顔を覗き込む琉旺さんの顔をぼんやりと見つめてしまう。

「陽菜子?」

 心配そうに私の名前を呼ぶ琉旺さんの声が、耳に入っても私の頭の中は、ぼんやりとしたままだった。

 なかなか現実に追いつかないというか、現実を受け入れられないというか……。

 兎に角、ショックだったのだ。


「お嬢さん、ソファに座れますか?」

 シュウちゃんに、言われて、頷くとソファに腰掛ける。

「じゃあ、お嬢さん、お水を飲みましょうか」

 そう言われて、琉旺さんが私が持っていたペットボトルのキャップを開けて、もう一度渡してくれる。

 それを受け取って、一口口を付けた。

 冷たい水が、体の中に入ってきて、気持ちも少し冷静になれたような気がする。

「どうですか?少し落ち着かれましたか?」

「……はい。落ち着いてきました。すみません、心配させちゃって……」

「いえ、ショックを受けて当然です。

 こんなことに、巻き込んでしまった此方が悪いのですから、謝らないでください。

 此方こそ、申し訳ありませんでした」

 シュウちゃんは、オオトカゲなのに、とても丁寧に頭を下げた。ああ……、可愛いなぁ。

 今のでチャラにしても良いかも……。


「陽菜子、怖がらせてすまない。

 俺は、こういうのに慣れてしまって、陽菜子がショックを受けるということに、今ひとつ思い至れなかった……。

 本当に、すまない」

 琉旺さんは、私よりもショックを受けた顔をして、謝る。


 そっか、琉旺さんは、こういうことにも慣れてるんだ………。

「……え?慣れてる?慣れてるって、どういうことですか?」

「いや、度々というか、いつもというか……」

 口ごもった琉旺さんに変わって、シュウちゃんが説明してくれる。

「我々、竜家の王の体には鱗が出ます。それは、陽菜子お嬢さんは、ご存知ですよね?」



 琉旺さんの体の左脇腹からお尻にかけては、グレーに青みがかって光る美しい鱗がある。

 病院で着替えを渡したときに、うっかり覗いてしまった私が、さらに、ついうっかりサワサワ触ってしまったアレだ。

 あの鱗を、いや、琉旺さんそのものを、どうにか手に入れて、研究しようとしている非公式の研究機関が存在するそうだ。

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