第22話 ドラちゃんは?

「あのさ、陽菜子。俺、すごく良いこと思いついた」

「はい。なんですか?」

 私は、水槽の中のトカゲちゃんを見つめたまま、おざなりに返事をする。


「陽菜子が、飼わない?」

 そう言われて、後ろに立っていた琉旺さんの方に、グリンと顔を向けた。

「うわ……陽菜子、体、柔らかい?

 頭だけが、めっちゃ後ろ向いてて、エクソシストっぽくってコワイ……」

「ウルサイ……。

 ってか、今なんて言いました?」

「陽菜子が、このアルマジロトカゲ飼わないかなって……言いました」

 琉旺さんは、ちょっとビビりながら、もう一度私がトカゲちゃんを飼わないかと言ってきた。


「ふっ……、飼えるもんなら飼ってあげたいところですけどね。

 私には30万円もするトカゲちゃんをポンと買えるほど、財布に余裕がないですね」

 私は、憂いを帯びた表情で、答えたけれど、琉旺さんはとっても良い笑顔で、笑いかける。

「大丈夫だ。金の心配はするな。

 こいつにかかる金は、全部俺が出す。

 陽菜子は、陽菜子の家で、こいつを愛情を持って育ててくれれば良いから」

「え……でも……」

 

 琉旺さんの言っていることが、愛人に子供の出来たクズ男のセリフに聞こえるのは、私がひねてるからなんだろうなぁ……。

 現状の会話と全く関係のないことを頭に思い浮かべながら、考えてみる。

 私が、トカゲちゃんを飼うことには何の問題もない。

 でも、琉旺さんにお金を全部出して貰うのはどうかと思うし、そもそも、トカゲちゃんは、琉旺さんに飼われたいって言ってるのに、私で良いのかなと、思う。


 そうしたら琉旺さんは、しばらくアルマジロトカゲと見つめあっていた。

「こいつも、そうして欲しいって。

 で、俺もできる限り仕事を調整するから、……陽菜子の家に行っても良いかな?」

 最後のセリフを、モジモジしながら言って、頬をピンク色に染めた琉旺さんが、こちらを伺い見る。


「分かりました。じゃあ、トカゲちゃんのお金は、琉旺さんが出してください。

 他の飼育に必要な物の購入は、私がします」

 そう言うと、琉旺さんは、満面の笑みでコクコク首を振っている。

 変な人だ。自信満々な俺様かと思いきや、急に照れたりする。

 でも、それも別に嫌じゃないなと思っている、自分自身の変化を一番変だと思う。



 念のために、証明書をもらうことにした。

 証明書を発行して貰えば、密輸でないことがハッキリするからだ。


「いやぁ、飼い主さんが決まってよかったです。

 本当は、ホームセンターのペットコーナーに、アルマジロトカゲなんて入れないんですけど、お世話になってるブリーダーさんのお知り合いの方が、どうにも飼えなくなったらしくて……。

 仕方なくうちに入荷してきたんです。

 誰も飼ってくれなかったら、僕が飼おうかとも悩んでたんですが、ウチの奥さん、虫が苦手なんで……。

 餌がね」

 

 アルマジロトカゲが売れたのが嬉しかったのか、ペットコーナーのお兄さんは、聞いてもないのに事情を話してくれた。

 更に、オマケだと言って、床材や、水入れ、シェルターなんかをくれた。

 とりあえず、密輸じゃなくて良かった。


 


 タイルを買いに行ったのに、トカゲちゃんまで連れて帰ってきて、遼ちゃんは、またワァワァ騒いでいたけど、トカゲちゃんを見たら気に入ったようだ。

「ねぇちゃん、こいつ小ちゃいドラゴンみたいでカッコいいじゃん!

 名前何にするの?」

「え?トカゲちゃんじゃだめ?」

 名前と言われて、トカゲちゃんと答えた私に対して、遼ちゃんはしょっぱい顔をした。


「だめだよ!ネェちゃんは、トカゲは全部トカゲちゃんじゃん」

 それもそうだな……。

「じゃあ、ドラゴンみたいだから、ドラちゃんは?」

「えぇ〜。某、国民的アニメの青いネコ型ロボットみたいじゃん……」

 何かと、ケチをつけやがる。

 私に、ネーミングセンスを求めるな。

 まぁ、確かに……途端にアルマジロトカゲが、どら焼き食べているのを想像してしまった。


「じゃあ、何が良いのよ?」

 遼ちゃんは、スマホで何か調べていたけど、

「ロンにしよう。中国語で、ドラゴンって意味だよ」

と、嬉しげに笑った。

「オッケー。じゃあ、遼ちゃん、ロンにコオロギあげてね」

 私は、遼ちゃんにコオロギの入ったパックを渡した。

「ウギャー!生きてるじゃん」

 やっぱり遼ちゃんは、ワァワァ騒がしい。

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