第21話 二の舞を踏む
「琉旺さん、探しました……」
あれほど、俺のそばを離れるなと言っていたのに、琉旺さんが消えてしまった。
いや、確かに最初は私にぴったりへばり付いてたんだよね。
しっかりと手を繋いで、少しでも男性のお客さんが近くに来ようものなら、じっと相手を睨みつけて威嚇していた。
背の高い琉旺さんから発せらせる、異様な圧力に、お客さんたちは、タジタジして腰が引けていた。
このままじゃ、危険人物認定されて、警備員を呼ばれるかもしれないと冷や汗をかいた。
なのに、私が植物のタネのコーナーの前で座り込んで、どの種にしようかと悩んでいる間に、琉旺さんは何処かに消えてしまったのだ。
迷子だ、迷子……。
「すまん、陽菜子。
俺が二の舞を踏んでいたせいで、心配をさせてしまったな……」
うん?
「えーっと、何かを迷ってました?
舞わないでください。足ですよ。
………ところで、何を迷っていたんですか?」
「それだ!」
琉旺さんは、私の手を引くと、お店の角にあるペットコーナーの、更に奥にある小さめの水槽がいくつか並んでいる棚に私を引っ張っていく。
「こいつが、俺に話しかけるんだよな……」
「ふわぁ!!」
琉旺さんに紹介された子は、水槽の中に入っているアルマジロとかげだ。
全身が、トゲトゲで小さなドラゴンのような風貌のトカゲで、流通数が少ないために、滅多に見かけることのない希少な子だ。
正直、ホームセンターのペットコーナーにいるのには驚いた。
「で、何て話しかけてくるんですか?」
周りの人に聞かれないように、声を潜めて話す。
一昔前に流行った電波系だと思われないようにするためだ。
琉旺さんも、理由は分かっていないだろうけど、同じように声を落として話してくれる。
ってか、琉旺さん、普通にトカゲと話せるんだな……。
羨ましい。
私も欲しい。
その能力……。
「こいつが言うにはさ、仲間とはぐれちゃったんだって。
何処かの場所に、何匹かで生活してたんだってさ。
そしたら、自分だけケージに入れられてここに連れてこられたって……」
「な!!!それって!!!……」
「シーーーー」
口の前に人差し指を持っていかれて、慌てて口をつぐむ。
「そ……それって、密輸なんじゃ……」
アルマジロトカゲは、希少種のためにワシントン条約で輸出制限がかけられている。
乱獲が原因で、数が減少しているからだ。
「でも、お値段普通ですね」
通常のアルマジロトカゲの金額は30万〜40万円ほどだ。
えらく安く出ている個体は、密輸されている可能性が高い。
でも、このアルマジロトカゲちゃんは、30万円だ。
ただ、やはり希少種なので、欲しい人が予約をして購入するルートが殆どのはずなのに、こうやって、ホームセンターの隅っこにあるペットコーナーでポンと売られているのは、正直言って怪しい。
「こいつの話をきくに、何処かの室内で多頭飼いされていたって言ってるんだよね。
それじゃぁ、密輸かどうかは分からないんだよな。
で、連れて帰ってくれって言うわけ……」
「はぁ、飼って欲しいってことですか?結構なお値段ですが……」
「そこは、問題じゃないんだよ」
金額は、問題じゃないのか……。さすが、金持ち。
「俺、こう見えて結構忙しいの。出張多いし、海外出張にでもなると、なかなか戻って来れないし……。
だから、飼うのは難しいよなって……。
確かに、家の中にいっぱい人はいるから、誰かに世話を頼んでも良いけど、それじゃあ、俺じゃなくても良いんじゃないかなって思って。
こいつは、俺に飼われたいんだろうし……」
「なるほど……それで、ここで、水槽の中を眺めて悩んでたんですね」
「そう……」
琉旺さんって、何のお仕事してるんだろうなぁ?
そう思ったけど、特に突っ込んで聞くことじゃないなと、思い直してアルマジロトカゲちゃんを見ていると、向こうも水槽の中からこっちを見てくる。
はわぁ〜❤︎可愛い……。
黄色のような、見る角度によっては金色にも見える瞳の中に、丸い黒目がクリンとなっていて、じっとこちらを見ている。
突起状の鱗が、何枚も並んで鎧のように体を守っている。
危険を感じると、自分の尻尾を咥えて、体を守るめて自己防衛しようとする。
それが、アルマジロに似ていることから、アルマジロトカゲと呼ばれるのだ。
大の大人が、2人並んで、トカゲの小さな水槽の前でボソボソ喋ったり、水槽にへばりついてジッと見つめたりしている光景は、電波系でなくとも十分怪しく見えると言うことは、アルマジロトカゲちゃんに目がハートになっている私には、分からなかった。
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