第11話 ズェんズェん、問題ありまぜん!

 鼻にティッシュを詰め込んで、若干鼻声で竜凪さんに問いかける。

「竜凪しゃん、づまり、シュウぢゃんはトカゲだげれど、しゃべれうというごどれすか?」

「陽菜子、聞き取りづらいな………まぁ、そう言うことだ。

 そもそも、お前には俺の体の鱗も見られたしな。まぁ、話しても良いかなと思って。

 なんでか分かんないけど、普通驚いて、気持ち悪がったりするところを、お前は、喜んでるし……。

 鼻血、大丈夫か?」

「ズェんズェん、問題ありまぜん!」

 元気よく返事をして、ギラギラした目でシュウちゃんを見ている私を、竜凪さんは気の毒な子をみるような目でみる。



 竜凪さんが私に話した内容は、私の心臓にとどめを刺すくらいの驚きの内容だった。

 なんと竜凪さんをはじめ、シュウちゃんも含める、竜家と呼ばれる一族は、恐竜を祖としているという。

 

 6600万年前、メキシコのユカタン半島に墜落した巨大隕石が原因で、絶滅したとされている恐竜。

 しかし、実は、この時に生き残った少数の恐竜達がいた。

 彼らは、隕石衝突の際に起こった地面の隆起ーつまり、大地震によって出来た、地下の空洞によって生き延びることができた。

 たまたま地下空洞に落とされた恐竜たちは、そこで長い期間を生き延びる。

 

 隕石衝突の影響によって起きた、大量のチリが太陽光線を遮って起こった“核の冬“や、その後の急激な温暖化などの環境変化。

 その多くを地下で過ごす事によって、その影響を最低限に留める事が出来、どうにか命を長らえることができたという。

 地下にいた長い年月の間に、恐竜達は環境に馴染むために、コロニーを作り、強く賢いリーダーの元に統率が生まれ、どうすれば生き残ることが出来るよう考えた。

 

 より強い種に変わるために様々な動物達と混じり合い、その時代や環境変化が起こるごとに必要な、強さや俊敏さ、体温を調節することへの適応能力などを手に入れてきた。

 そして、地下から地上に上がって手に入れたのは、頭脳とコミュニケーション能力だ。

 すなわち、それは人類と血を混じり合わせることによって手に入れたのだ。

 

 しかし、祖先である恐竜の血が薄まっていくことはあっても、消えることはない。

 現代においても、生命が脅かされたり、極端な怒りなどの感情の揺れを感じたりした場合には、周りからは爬虫類に見える姿に変わってしまう。

 

 今回、シュウちゃんがオオトカゲの姿に変わってしまったのは、人の姿では生命維持が難しいと体が判断したためだという。

 なるほど、シュウちゃんが他にいない希少種だと言うのは、そのためか……。

 見つかれば、希少種どころか新種として捉えらえて、どこかの研究施設に連れて行かれてしまう可能性だってある。琉旺さんが、神経質になるのも頷ける話だ。


 通常は、竜家が管轄している屋敷には、爬虫類を診れる医師が常駐しているため、困ることはないそうだ。

 けれど、ヒナ動物病院に駆け込んだのあの日は、急な怪我でシュウちゃんがトカゲに変わってしまい、止血もままならずに困ってしまって、動物病院の看板を見つけて駆け込んだそうだ。

 更に、ここ数日は、事情があって常駐医が不在にしており、悩んだ末に私を連れてきたと竜凪さんは言った。

 なるほど、それであの大袈裟なほどの立派な設備が整っているわけだ。




「そうなんですね……。じゃあ、竜家と言われる人たちには様々な血が流れているんですね」

「そうなるな。どの生物も種を残すことには貪欲だが、竜家の者はその中でも特に執着心が強いだろうな」

 そう言って、お屋敷のメイドさんが出してくれた、お茶に口をつけている竜凪さんの瞳が、キラリと金色に見える。

「竜凪さんの目の色が金色っぽく見えるのも、色んな血が混じっているせいですか?」

「まぁ、そうだな。それに俺の婆さまは、外国人だしな。

 他にも色んな国の血が混じってる」

「そうなんだ……。

 遼ちゃん、……うちの弟が、たまに目の色が違っているので、同じようにコンタクトしているんだと思っていました」

 

 オオトカゲのシュウちゃんが、のそりと動いて口を挟んだ。

「ルゥさまは、二年前までは、海外でお暮らしだったんです。

 竜家の本体は日本にありますが、皆、色んな国で暮らしています」

 

 オオトカゲが、喋るなんて、なんて貴重でファビュラスなんだろう……。

 私は、うっとりとシュウちゃんを見つめながら、また鼻の奥の粘膜が熱くなったような気がして、急いでテーブルの上のテッシュで鼻を押さえた。

「竜凪しゃん、日本語お上手なんでしね」

 竜凪さんは、またもや、フガフガ言いながら話す私に、得意げな顔でニヤリと笑う。


「そうだ。俺は竜家を背負っているからな。竜家のために血の凍るような努力をしているのだ」

「いえ、血は凍りません。滲むようなですね」

 ふふん!と得意げに言った彼の言葉を、丁寧に訂正したが、彼は鮮やかにスルーした。

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