第6話 王都ですの!

結局、王都に出発したのは許可をもらってから二日後の朝だった。

準備もそうだが、お母様の説得に時間がかかったのだ。

王都に行くこと自体は問題なかったが、それについてこようとしたのだ。

お母様はまだ裁判前で、その罪も公になっていない。

最後の娘との旅行と言って聞かなかったのだ。

でも、今回の王都行きにお母様を同行させるわけにはいかなかった。


「結構、賑わっているのね」


そして、今日王都に着いたのだ。

ここまで三日もかかった。

二頭引きの馬車なのでかなり早く通とのことだったが、前世の車程ではないようだ。


「そ、そりゃ。王都ですから」


嬉しそうにアンネは窓から王都を見る。

心なしか嬉しそうだ。

まあ、ゴウゲルハイト公爵領の主都もここに来るまでの町と比べればずっと大きな町ではあるが、王都には負けるだろう。


「テーナ広場はどこかしら?」


今回の目的地である。

そこで会わなければいけないのだが、来る日はランダムだ。

なるべく早く会えればいいのだが。


「テーナ広場ですか? それですと、王城を挟んで真逆ですね」


王都は王城を中心にドーナッツ状に町を形成している。

王城から、上流貴族の住居、下級貴族の住居、繁華街、商業施設、平民の住居、最後に大きな壁という順番になっている。

テーナ広場は商業施設近くの広場だったような。


「行くのにどれくらいかかるの?」


「王都は広いですからね、馬車でも二、三時間はかかるかと」


「そうですの」


今はもうすでに太陽が落ちかけている。

彼がいるのは日が昇っている間だけ。

それなら、今日はもう無理ね。


「とりあえず、この近くで宿をとりましょう」


ボクがそういうとアンネは目を輝かせた。


「高級なとこ泊まってみたかったんですよ」


「何言ってるの?」


「え?」


アンネが見てわかるほど肩を落とす。

なんで、そんな勘違いをしているのかしら。


「そんなわけないでしょ?」


「でも、出るときに宿泊用にお金を、沢山」


それで、勘違いしたわけね。

でも、そんなことを目的に王都に来たわけではない。

それに前世から無駄なものは嫌い。

お金は必要なものに必要な物だけ。

それがボクの考え方だ。


「別に王都に来たのは観光のためじゃないの。あのお金は表向きは宿泊費になるけど、別の用途に使うのよ」


「そんな~」


「まあ、安宿に泊まるつもりじゃないから、そこそこのところに案内して」


無駄は嫌いだが、ケチというわけではない。

安宿に泊まって変な男たちに絡まれるのは許容できない。

お金は使う所では使わないと。


「それで、色々確認しておきたいことがあるの」


「なんですか?」


ほほを膨らませながら返事をする。

彼女は今は仕事中だということが分かっていないのかしら?


「不貞腐れないで。全部終わったら、ボーナスあげるから」


「本当ですか!?」


「嘘はつかないわ」


「よっしゃ!!」


ちゃんと今回の目的を達成できたらね。

これだったら、今回馬車を運転してくれている付き添いの執事の方がボーナスは多いわよ。


「さて、まずは今は何月何日何曜日?」


「三月十四日日曜日ですね」


よかった。

ゲームの設定のままだ。


このゲームは日本で作られたゲームだ。

そのせいか、時間軸だけでなく色々なところで日本臭いのだ。

中世のヨーロッパ風の町観なのに、街を見ると武士っぽいのがいるし。

食生活もライスに醤油、味噌まである。

設定的にはどうなのかと思うが、今は助かっている。


「お金の単位はガドルで間違いない?」


「はい」


初代王のガルド・フォーセルが由来になっている。

国の名前もフォーセル王国だし、このゲームのタイトル「フォーセルの聖女」もここからきているのだ。

後、聞いておきたいことといえば。


「相場は?」


「パンとかですと50ガドルもあれば、野菜は少し高くて「ごめんなさい」


話が長くなりそうだし、よくよく考えればほとんど払うのは召使たちである。

そこまで知る必要はないだろう。


「買い物のときにその都度聞くわ」


「かしこまりました」


ボクたちが話していると馬車が止まった。

窓の外を見るといくつも店が所狭しと並ぶ通りの少し大きめな建物の前だった。

店の看板には ホテル ボンボン と書かれている。

なんか、お金持ちを相手にしている店のような。

でも、外観はちょっとチープ。


とりあえず、ボクはアンネを伴って中に入る。

中はきれいだけど、どちらかと庶民派の宿泊施設のようだ。

まさにボクが思い描いていたものだ。

執事にはボーナスアップを検討してやろう。


「いくらかしら?」


受付のお兄さんにボクは聞く。


「先払いで1800ガドルだ」


ん?

なんか、当たりが強いような。


「まあ、いいわ」


「一番奥の部屋を使え」


気のせいではないようね。

全く、こんなか弱い女の子を相手に何なのかしら。

でも、ボクは前世は二十歳越えのお姉さまよ。

十代のお兄さんにいちいち腹は立てていられないわ。


「鍵は?」


「そんなものはねえ」


プチン


「随分馬鹿にされてるわ。ねえ、アンネ」


ボクは横目にアンネに合図を送るとアンネは手のひらに炎を出現させた。

そして、不気味に笑うとボクに視線を向ける。


「暴れていいのですか?」


「ええ、ここら一体吹き飛ばしてあげなさい」


ボクがそういった時だった。

裏から小太りの男が走ってやってきた。


「ま、魔法使い様、それにゴーゲルハイト家の家紋。 申し訳ございません! すぐに一番いい部屋を!」


ボクの服の家紋を見て店主はすぐに気づいたようだ。

全く従業員の育成もまともにできていないのね。

それに、ここで許してやるのも癪に障る。


「あら、わたくしたちは侮辱されたのよ?」


「もちろん、宿泊費はタダで構いません! それにこいつもすぐに追い出します!!」


店主は「この店を潰す気か!!」と、怒鳴りながらお兄さんを宿屋から追い出したのだった。


「鍵付きよ」


「かしこまりました」


そして、店主に部屋に案内される。

「何かあれば、お呼びください」と小さな体をさらに姿勢を低くして去っていった。


「……」


「……。どう、悪役令嬢みたいだった?」


「悪役そのものですよ、お嬢様」


実はお兄さんにあってすぐの時は家紋を隠していたのだ。

本来貴族は外に出るときは家紋を見える位置に付けていることが多い。

それを見て店は接し方を変えるのだが、お兄さんはボクが家紋を付けていないのを見て、平民が贅沢しているとでも思ったのだろう。

しかも、年端もいかない娘がだ。

だが、本来そういう時は相手に確認をとるのが当たり前だ。

それを怠った彼が悪いのだろう。


宿賃タダ、やった!


「そういえば、まだ聞きたいことがあったの」


「なんでしょう?」


「ダンジョンに行きたいの」


アンネが言葉を詰まらせる。


「……。理由を聞いても?」


「ごめんなさい」


アンネに行っても意味がない。

だって、乙女ゲー、フォーセルの聖女はダンジョンアタック物のゲームなのだもの。


「ダンジョンは王家の者、もしくは王家から許可をもらった貴族の者しか入ることができません」


「そう」


あの事件前なのでどういう扱いになっているのか知りたかったのだが、なるほど。

確かにあそこは金の生る木だ。

王家が手放すはずがない。


「なぜ?」


アンネが疑いの目を向ける。

これだと一人で先走りそうね。


「そうね。じゃあ、ヒントを上げる」


「え?」


「ヒントは王家の墓」


そこまで言えばさすがにわかるでしょ?


「それ以上は教えてあげない」


「……。そんな、でも」


アンネは答えが出たようだ。


「王家の墓。初代の墓がダンジョン化するのですか?」





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る