第4話 悪役令嬢になりますわ!


「悪役令嬢?」


ボクの言葉に彼女は首を傾げた。


「はい」


使う方法は悪役そのものだ。

そして、迷わずその方法を選ぼうとした自分にも驚きだ。

もしかしたら、シセリーナ自身が父親を殺してしまいたいくらい憎んでいたのかもしれない。


「まず、お母様は紙とペンを。それと、お父様が書いた書類などがあれば、それを持ってきてください」


「分かったわ。……、わざわざ私をお母さんと呼ばなくていいのよ」


ボクにそう言ってくれる。

前世のママに対しての引け目かもしれない。

もしくはシセリーナを守れなかったことへの罪の意識からかも。

でも、ボクの中の何かが言うのだ。

この人は大切な人だと。


「大丈夫だよ。お母さんが嫌じゃなかったら、お母さんって呼びたい」


「ありがとう。こんな私でも、お母さんって、呼んでくれて」


「もう、お母さん」


泣き出してしまったお母さんを今度は私がやさしく撫でるのだった。

しばらくすると、お母さんは寝息を立てていた。


「さて、情報収集しますか」


やることは決まっている。

だが、それにはボクの置かれている状況の把握と、情報が必要だ。

それに、計画を遂行するには王都に行かなくてはいけない。


「やることが多すぎるけど、一つずつ潰していこう」


部屋を出ると最初にボクが起きたのを見つけた給仕さんが立っていた。


「お、お嬢様!? まだ、無理をされてはいけません」


ボクが起きてきて歩いているのを驚いているようだ。

そういえば、ボクは三日も眠り続けていたのだ。

心配もる。


「ごめんね。ずっと、部屋にいるのもつらくて」


「そうですか。問題なければそれでいいのですが。奥様は?」


「寝てる」


「疲れていらっしゃるのですね」


そう言って給仕さんは扉の向こうを見つめる。

お母さんの苦労をそばで見てきたのだろう。

この人から情報を引き出してみよう。


「ごめんね。ずっと寝てたせいか、記憶があやふやで。あなたの名前はなんでしたっけ?」


「私はアンネです」


「じゃあ、アンネ。ボクって寝込む前はどんな人間だった?」


「……。やはり、何かあったのですか?」


ほう、そう聞き返してくるか。

もしかして、さっそく当たりを引いたかな?


「記憶の方に色々と障害が残ってしまったようなんだ。これも、魔力が増えたせいかな?」


「どうなのでしょう? 今まで前例がありませんので」


「……」


「お嬢様?」


「子供だからって、馬鹿にしすぎだよね」


「!?」


ボクが何も知らないとでも思っているのかな?

それとも、子供だと侮っていたか。

どちらにしても。


「アンネ、なんでボクが魔力が増えたことを知ってるの?」


一瞬アンネは目を細める。

だが、すぐに笑顔の仮面をつけた。


「今、お嬢様にお聞きして知りました」


「でも、それだと今のアンネの対応はおかしいんだよ。だって、魔力は禁呪を使わないと増えないんだから。魔力が増えたなんて普通聞いたら真っ先に驚くよね?」


「……」


「見た目子供だからって馬鹿にしすぎじゃない? それでも、白を切るならこっちにだって考えがあるよ」


近くの階段の前で立ち止まる。


「死んでやるよ。わざわざ、禁忌まで犯して作り上げたこの体をドブに捨ててやる」


アンネは近づこうとするがすぐにやめた。

ボクがその前に身を投げようとしたからだ。


「あなたは分かっているのですか?」


「自分の価値を? そうじゃなきゃこんな事しないよ。ボクが死んだら困るでしょ?」


はっきり言えば賭けだったが、思った通りだった。

彼女、ひいてはその裏にいる人間にとってボクのこの体は千金よりも価値がある。


「……」


「なんなら、君の正体当ててあげようか? 魔教か、魔法研究会でしょ?」


「なぜ、その名を」


はい、当たり!


このゲームにおいて、主人公達に立ちはだかる敵として、更に魔法研究を行うといったらこの二つの団体があった。

やはり、この体を研究したい人間がいるらしい。


「ふふふ、なんででしょうね」


教えてやるもんか。

でも、アンネって墓穴掘ってくタイプの悪役なのね。


「悪魔」


アンネが睨みながらボクに言う。


「うーん、ちょっと違うかな」


そうだな、ここいらで悪役らしくしてみるか。


「わたくしは悪役令嬢でしてよ。なんてね」


「あくやく?」


アンネもあんまり理解出来ていないようだ。

まあ、いい。

今後のボクの行動で理解してもらおう。


「さて、アンネ。貴方にはやってもらいたい事があるの」


「それを、私がする理由があるのですか?」


「貴方だけにわたくしを研究させてあげると言ったら?」


「……。どう言う事です?」


冷静を保っているように見えたが、ボクは彼女の口端が上がったのを見逃さなかった。


「どうせ、お父様から血液採取とか、魔力量の測定くらいしか、わたくしを研究できないように言われてるのでしょう?しかも、月に数回しか。」


「……なんで、そう思われるのですか?」


「だって、貴方みたいな研究員が、メイドまでして研究対象に関わるのですから、それなりに理由があると思ったの」


ボクの家にも給仕さんはいたから分かる。

本来、倒れたりした主人が起きた後に給仕は家族に連絡もするが、まず先に医者へ連絡する。

それなのに医者はいつまで待っても来ない。

それに、ボクを見る目が観察する人間のそれだった。

研究員としては一流かもしれないが、給仕や役者の才能は無いようだ。


「さすがに解剖とかされると困りますが、研究員として雇ってあげるわ。メイドの仕事の傍では研究もそんなに進まないでしょ?」


「貴方にメリットがあるとは思えません」


「メリットは有るわ。わたくしは今の状態について何も知らない。もしかしたら、何かが原因で死につながる可能性もある。そうならないように研究して欲しいの」


それに、元の世界へ帰る、もしくは異世界へ行く方法があるかも調べておきたい。

体は違うが、パパやママ、それに友達とも会いたい。

ドラマの続きも気になるし。

何よりノブを寝とったあの女に復讐していない!


「なる、ほど。分かりました」


アンネは疑っているようだが、それとは裏腹にとても嬉しそうだった。

まるで、新しいおもちゃをもらった子供のように。


「それで、何をすれば?」


「そんな、難しい事はないわ」


ボク自身の悪役っぷりに内心ほくそ笑むのだった。



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