第3話 後悔ですわ!
ボクがゲームのライバル令嬢シセリーナ・ゴーゲルハイトになった日から三日が経った。
だが、未だ夢から覚めてくれる様子はなかった。
「ボクはどうすれば」
これが本当に異世界転生なら。
ボクは前の世界で死んでしまったことになる。
つまりは。
「パパにもママにも、もう会えない」
大好きだった家族に会えないのだ。
その事を実感し、また涙を流した。
「千代、良子さん」
助けて。
でも、仲の良かった二人はいない。
ボクは何度も泣いて、泣きつかれて、眠る。
そして、起きては後悔して、涙を流していた。
たまに食事を給仕さんが持ってきてくれるが、それを食べる気にはならなかった。
「シセリーナ?」
その日、初めて見る女性が中に入ってきた。
どこか、誰かに似ているような。
……。
ああ、シセリーナによく似ているんだ。
「つまり、この世界でのお母さん」
「この、世界?」
「気にしないでください」
「気にしないわけないでしょ」
その人はやさしくボクを包み込んでくれた。
どこか安心する。
でも、違う。
違うのだ。
「やめてください」
ボクは突き放そうとするが、力が出なくてできなかった。
「なぜですか?」
女性は悲しそうな顔でボクに話しかけてくる。
この人はボクをまだ娘だと思っているのだろうか?
中身は全く違ってしまっているのに。
かわいそう。
「あなたの娘は死にました」
「……。やはり、そうなのね」
彼女は涙を流す。
ボクはその姿を見て、胸が苦しくなった。
この人もボクと同じで大切なものを失ったのに、なんて無神経だったのだろう。
「ごめんなさい。嘘です。ボクは」
「シセリーナは自分を“ぼく”とは言わなかったわ」
「えっと、今のは間違いで」
「いいの、分かってたから」
どういうことだろうか?
なんで、こんなにもつらい状況を理解し、冷静でいられるのだろうか?
「まず、なぜシセリーナがこんなことになったか教えてあげるわね」
「え?」
「シセリーナはやっと私たちの間に生まれた子供だったの。でも、魔力をほとんど持っていなかった。だから、旦那様が魔力を手に入れるための禁呪に手を出したの」
「きん、じゅ」
最新作の内容を知らないので彼女がどういう設定があるのか分からない。
でも、この禁呪がゲームのカギになるのは明らかだろう。
「その禁呪に耐えられなくて、一度シセリーナは呼吸が止まったの。すぐに私は同じく禁呪に指定されている蘇生の魔法をかけた。でも、生き返ったあなたの魂の色が変わってしまったのに気付いた」
ボクをやさしくなでてくれる。
本当は辛いはずなのに。
それなのに、彼女はすごく辛そうに笑った。
「私はあの子を守れなかったのですね」
その悲痛な言葉にボクはまた、涙を流していた。
「でも、ボクを助けてくれました」
ただ、この方をボクも支えてあげたくて。
必死に笑顔を取り繕った。
「ありがとう」
ボクのその言葉に笑顔も忘れて泣き出してしまったのだった。
しばらくすると、彼女はまたボクに笑顔を見せてくれるようになった。
「私もありがとう。でも、もうすぐお別れね」
「え? どうして」
「私は蘇生魔法を使ったせいで、投獄されることになるの」
「なんで?」
「聖女の力は私利私欲のために使ってはいけないから。これでも、私は聖女だったのよ」
聖女の言葉にふと私は思い出した。
一作品目は聖女がその力を失い、新たな聖女を探すことから始まる。
聖女は回復や光の魔法に特化しており、魔力を持っている十代の女性は誰でもなる可能性がある。
だが、魔力をもつ者のほとんどは貴族だ。
その為、基本貴族しか魔法学校への入学はできないのだが、急遽平民からも魔力持ちであれば入学できるようになるのだ。
もちろん、聖女選定を伏して。
民が動揺しないようにとかそういう理由だったはず。
「もう、聖女じゃないの?」
「はい、蘇生魔法のせいで、魔力が空っぽですし、聖女の紋章も消えてしまいました」
そうなると、おかしい。
ボクはライバル令嬢だ。
爵位もない家の娘に令嬢にはなれない。
「旦那様は取引を行い、魔力引継ぎの禁呪の件を無かったことにしました」
「でも、それって」
禁呪を使った痕跡は消せない。
でも、無かったことにするのであれば、代わりの犯人を仕立てないといけない。
つまり。
「仕方のないことです。そうでもしないと、あなたが行き場を失ってしまいます」
「だけど、それではあなたは!? いやだ!」
「お願い」
「絶対にいや!!」
子供のように駄々をこねる。
なんでこんなことをしているのだろう。
なんでこんなにこの人を大切に思うのだろう。
「聞き分けて」
「やだ、お願い生きて。お母さん!!」
「え?」
そうか。
私の中にまだシセリーナは生きている。
「そうなら」
「ねえ、どうしたの?」
確かどこかの悪役がやっていた方法を使わせてもらう。
これなら、やりたい事をやらせてもらう。
「悪役令嬢になりましょう」
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