第2話 転生ですわ!!
ボクは目を覚ますが異様に頭が痛い。
喉も乾いている。
そういえばバーボンのボトルを一気飲みしたんだった。
その後に記憶が無い。
「酔った勢いって怖いわ」
親譲りでお酒は強いのだが、あんなに飲めばどうなるかなんて分かりきっていた。
でも、そうしてしまったのはやはり、失恋という傷のせいだろう。
「ああ、もう最悪。大学行きたくない」
でも、就職先も決まり。
卒研も滞りなく進んでいる。
今ここで、すべてを投げ出すのはもったいない。
「仕方ない、頑張りますか」
ボクはフカフカな布団を出る。
そして、天井を見ると天蓋があった。
「……。ボクのベッドってこんなのついてなかったはず」
おかしい。
横を見ても、前を見ても、ボクの部屋ではない。
良くも悪くももっと機能的な部屋だ。
こんなに煌びやかな装飾が散りばめられた豪華な部屋ではない。
もしかして、酔った勢いでどこか知らない所に来てしまったようだ。
「とりあえず、場所の確認を」
「お嬢様!」
扉が開いて入ってきた給仕さんが私を見て叫んだのだ。
頭が痛いから大声は勘弁してほしい。
それに、白と黒を基調とした服は前にノブが私に着せようとしてきたメイド服によく似ている。
ただ、ノブの持って来たものよりだいぶさっぱりしてはいる。
あれ、フリルとか多くてかわいいけど。
着るのはちょっとな物だったし。
「大丈夫ですか!? 昨日のことは覚えてますか?」
「昨日? お酒を飲んで。……その後は?」
「倒られたのです。そのあと高熱を出されて、三日も寝たままに」
なるほど。
そうなると、千代には悪いことをした。
色々迷惑もかけたし、心配もしているだろう。
それに。
「パパとママは?」
「旦那様は仕事に。奥様はお嬢様を心配して、先ほどまで起きていましたので」
「なら、そのまま寝かせてあげて。それと、ここはどこ?」
「どこ、と言いますと?」
給仕の女性は躊躇いがちにボクに聞き返してくる。
「休むならお家に帰りたいなって」
「家はここですよ。お嬢様」
「はい? だって、こんな洋風の造りじゃないし」
「ヨウフウ?」
何かおかしい。
ボクは体が重いことに気づいた。
体もおかしいのだろうか?
落ち着かせるために深呼吸とともに胸に手を当てる。
ふにゅう
「え?」
ふにゅう
「ある」
何度触ってもあるのだ。
「な、何がですか?」
給仕さんが聞いてくる。
ボクは何度も触って確認しながら、顔を合わせる。
「胸が」
絶壁だったはずのボクの胸があるのだ。
ふくらみかけではあるが、確かにあった。
「え? そ、そうですね。お嬢様はまだ八歳ですが、奥方様も大きいですので」
「は?」
「はい?」
ママはボクと同じで絶壁だ。
冗談でもそんなことを言おうものなら、消される。
色々と。
いや、その前に今私を八歳とか、言わなかったか?
「パパの身体的コンプレックスは?」
「え!? 旦那様ですか? 少し前に白髪が多くなったと話されていたような」
はい、おかしい。
パパは白髪以前に髪がない。
毎夜、隠れて育毛剤をかけている。
いつもは頼りがいがあるその背中が、一回り小さく見え涙を流した。
「最後に、家名は?」
「ゴウゲルハイト、です」
「爵位?」
「公爵です」
「私の名前!?」
「シセリーナ、お嬢様です」
はい、これはあれですね。
ボクを揶揄ってるんですね。
異世界転生なんてありえない。
なので、必然と犯人が分かる。
犯人はパパだ!
パパは茶目っ気があるので、たまにサプライズを計画する。
ここまで大掛かりなのは初めてだが、今回もそれに違いない。
「パパ! どこなの!?」
「お、お嬢様。旦那様はお仕事で」
「そんなわけないでしょ。仕掛け人が見ていないはずがないもの!」
「お、落ち着いてください」
ボクはベッドから出る。
だが、よろめいてしまう。
頭は痛いが、意識ははっきりしているのに。
まるで、自分の体ではないように。
「あれ? ボクってこんなに小さかったっけ?」
自分の手を見て思わずつぶやく。
よく、見てみると背も縮んでいる。
「お嬢様が、ぼく?」
給仕さんがなぜか驚いている。
何がそんなに驚くことがあるだろうか?
「え?」
ふと、部屋にあった姿見を見る。
そこには、きれいなブロンドの長い髪に大きな赤い瞳。
肌は白くきめの細かい。
とても日本人とは思えない美しい少女の姿だった。
「だれ?」
「お、お嬢様です」
後ろで給仕の女性が言う。
「ボクは、ボクだ、よ?」
「はい、お嬢様は公爵家の一人娘、シセリーナ・ゴウゲルハイト様です」
「は、はは。ハハハハ。は~」
理解が追い付かないボクはまた倒れるのだった。
「お嬢様!! 誰か、医者を!! 医者を呼んでください!! 誰か!!」
つまりこれはあれですね。
千代や良子さんが好きな異世界転生ってやつですね。
どうすれば。
……。
シセリーナ・ゴウゲルハイト?
「は!!」
「お嬢様!?」
「それって、最新作のライバル令嬢じゃん!!」
「はい? 最新作? らいばるれいじょう?」
こ、こんなことが起きるとは。
ボクのショートしそうな頭脳は考えることを止めた。
これは悪い夢だ。
でも、夢ならいつかは覚める。
それまで、ベッドで寝ていよう。
給仕さんに運ばれてベッドに横になる。
そして、目を瞑った。
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