その令嬢、自ら悪の道を突き進む ~ヒロインの顔が気に入らないので、イジメてやりますわ~

矢石 九九華

第1話 プロローグですわ!


ボクは楠本くすもと 亜希あき

某大学、薬学部の四年生。

そんな私は今幸せの絶頂期である。


「今日はいつも以上に幸せそうね」


友達の千代ちよが昼食を食べながら恨めしそうにボクに言う。

もう、ボクの幸せオーラは隠せていないようだ。

でもそれも仕方ないことだ。


「そりゃそうだよ。ボクは今最高に幸せなんだもん」


「そうね」


ボクは四年生ということもあり、就職活動をしていたが一か月だけで薬品会社で一流といわれる会社の就職が決まったのだ。

周りは何社もお祈りの手紙をもらっているのに、ボクだけこの苦行をいち早く最高の形で終わることができたのだ。

その事を彼氏のノブに話したらまるで私の事のように喜んでくれた。

その日は一緒にボクの大好きなプリンを一緒に食べた。


「そういえば、もうすぐノブの誕生日なんだよね」


「ああ、高校から付き合ってるっていう彼ね」


「うん! 何を送ったら喜んでくれるかな?」


「なんでもいいんじゃない。喜んでくれるでしょ」


去年は前から欲しかったっていうヘッドホンをプレゼントした。

いつもこの時期になると何か欲しいものを言ってくるのだけど。

そういえば、今年は、まだ。


「これは、私の愛が試されてるのかな?」


「は?」


「つまりは、ボクをプレゼント!! みたいな?」


「その貧相な体を、誰が喜ぶのよ」


「喜ぶもん!!」


確かに、周りの女の子と比べると胸も小さいし、背も小さいし、でもそんなボクの事とがノブは好きだってよく言ってくれるもん。


「そうと決まれば、リボンを買いに行かないと!! 千代手伝って!」


「何を手伝わされるのよ」


「リボンでボクを縛って!!」


「場所と言葉と声のボリュームを考えて! 周りから白い目で見られるでしょ!!」


「?」


マワリ?

学生食堂だけど。

特に何もないような。


「亜希は空気を読むことを覚えようか」


「ごめん、千代。ノブの卒研が終わるから迎えに行くね」


「この空気の中私を一人残すの!?」


「じゃあね」


「おい!!」


千代はまだ昼食途中だったのでボクは彼女を残して研究等に向かった。

ノブとボクの研究室は違うので、セミナーなどで時間が微妙に会わないのだ。

なので、早く終わったり、もともとセミナーや授業がない日はボクはノブが終わるまで食堂で友達と話をしているのだ。


「ノブ! 迎えに来たよ!!」


ノブの研究室の扉を開けて呼ぶ。

だが、周りは何かざわめいている。


「ここにいないなら研究室かな?」


私は上の階の研究室に行こうとする。


「あ、あの!」


「ん?」


一人の気の弱そうな男の子がボクを止めようとする。

何だろうか?


「なに?」


「あ、あの、そのですね、今は、その」


要領を得ない。

でも、ボクとノブの愛を阻むものは許さないのだよ。


「ごめんね。急ぐから」


「え!?」


「じゃ!!」


ボクは研究室に向かう。

そして、研究室の扉を勢いよく開ける。


「迎えに! 来た、よ。……。何してるの?」


そこにノブはいた。

それも裸で。

そして、ノブの上にまたがるように女性が。

裸で。


「亜希、これは。ん!?」


ノブは何か言おうとするが、裸の女性がキスで止める。


「そういうことなの。お子様は出る幕ではないの」


ボクよりずっと背が高くて、胸の大きい女は更にノブに絡みつくように抱く。

ノブに視線を向けるがノブは目をそらし、彼女を抱き返した。

つまり、そういうことなのだった。


「……」


「ごめん。俺、こいつの事が好きなんだ」


ノブはずっとボクの事が好きだって言ってくれたのに。

あんなに好きだって言ってくれたのに。

今はそいつなんだね。

ボクの中で何かが切れた。


「……ってやる」


「「?」」


「パパとママに言ってやる!!」


そう言ってボクは走り出したのだった。


「それで、戻ってきたわけね」


「もう、最悪だよ~」


ボクは学食に戻るとまだ食事中だった千代に抱き着いたのだった。

慰めてもらおうと思ったが昼の学食なのでさすがに場所を変えようということで、行きつけのバーに来ていたのだった。


「ごめんね、良子さん。まだ、準備中なのに」


良子さんはこのバーの雇われママで、よくボクたちの悩みを聞いてくれるのだ。


「いいのよ。つらいならお酒で忘れちゃいなさい」


「良子さ~ん」


ボクは出されたバーボンをショットで喉に流すと良子さんに抱き着く。

ああ、癒される。

今は、お酒と良子さんに溺れたい。


「ノブの馬鹿野郎!! そんなにでかい乳がいいのか! くっそいい乳だった!!」


あの女はプロポーションだけでなく、デカさもさることながら張りも形もいい乳していた。

だが、私は。


「なんで壁なんだ!!」


「男は下半身にも脳みそがあるから、仕方ないのよ。一発ぶんなぐって許してやりなさい」


良子さんは開店の準備をしながら、ノブを許してやれという。

だが、最後に見せたボクを憐れむようなあの女の視線を思い出した。


「許してやるものか! パパとママに言いつけた!! もうあいつに未来はない!!」


「そういえば、さっき電話してたけど、もしかして?」


「そうよ、千代。パパとママに全部言いつけた。もうあいつは終わりだ!! ハッハハハハ!!」


「千代ちゃんどういうこと?」


「亜希のお父さんは議員でこの大学に多額の寄付を毎年してるんですよ。お母さんは大会社の理事をやってるとかで、色々な企業に顔がきくし。この二人を敵に回したら生きていけないですよ」


そういうことだ。

もう、あの二人が大学にいることも、これから仕事を探すのだって大変になるのだ!!

ざまあみろ。

ざまあ。

ざ、まあ。


「うわ~ん。なんで、六年も付き合ってたのに」


「結構長かったのね」


良子さんが驚く。

話したことなかったっけ?


「高校一年の終わりにボクが告白したの。あいつ、ボクと同じ学級委員でさ。もうすぐ、終わりだねって話してたら、急に寂しくなっちゃって」


「何度も聞いた」


千代がそういう。

そうか、千代には言ってたか。


「高校三年の終わりになんて、結婚しようねって約束したのに」


「何度も言うけど、亜希ってかなり重い女よね」


「何を言う!! ボクは体重三十ちょいだ」


全く失礼な奴だ。


「もう、恋なんてしない」


「昔そんな歌があったわね」


「良子さんって何歳?」


「女性に年齢は聞かないものよ」


「女性同士じゃないですか」


千代がスマホをいじっている。

もう少し、ボクに興味を持ってよ!!

千代はスマホから手を離す。


「え? 良子さんって、よん「それ以上言ったらだめよ」


「ん?」


何の事だろうか?

まあ、いいや。


「お酒のお代わりをください」


「はいはい」


良子さんがボトルを渡してくれる。

注いでくれたっていいじゃないか。


「あなたかなり飲むから、自分でよろしく」


「はい」


「そういえば、良子さんのおすすめ面白かったです」


そう言って千代は良子さんにプラスチック製の薄いケースを渡す。


「AV?」


「なんで、そんなものを私がここで出すと思うのよ!? 乙女ゲーです! 純愛ものです!」


ああ、千代が好きなやつね。

幼馴染とか、王子様とか、公爵様とか攻略してくんでしょ?


「現実で恋愛しなよ」


「もう恋なんてしないって言ったあんたに言われたくない」


「それに、現実で恋愛が出いない子も多いのよ」


そう、千代と良子さんが話すがよくわからない。

ボクもゲームをしないわけではない。

アクション系のゲームは大好物だ。

でも、恋愛シュミレーションってやってる間に飽きてきちゃうのよね。


「なら、もっとアイドルとかさ」


「最近のアイドルって韓流寄りで、作り物臭いのよ。天然物もあまり花がないし」


確かにそうかもしれない。


「それに、千代が好きだった乙女ゲーの新作も昨日出たんだよ。ほら」


そう言って千代がゲームのパッケージを渡してくる。

だが、それを見て、すぐに落としてしまった。


「何するのよ」


「この女!! ノブを奪った女!!」


「え?」


パッケージの真ん中にこじんまりとある主人公の絵に、ノブをとった女を思い出してしまった。

そして、千代がパッケージを見て納得したように頷いた。


「柏崎さんか。あんたの彼氏取ったの」


「柏崎、なに?」


「柏崎 澄さん。私達と同じ学部で一個下の学年の生徒」


「絶対に復讐してやる!!」


決意を込めて、お酒のボトルを一気に傾ける。

そして、体が熱くなり、立っていられなくなる。

ボクは倒れた。


「それは」


「ヤバい!!」


千代と良子さんが焦ったような声で近寄ってくる。

でも、もう。

眠い。

復讐は起きてからにしよう。

そういえばあのパッケージ裏にはいかにも悪そうな令嬢の紹介もあった。

多分乙女ゲーにはつきもののライバルになる令嬢がだろう。

どうか、あの主人公には負けませんように。

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