24話 モリア先生の基礎訓練ー鈴木陽太①

・9月16日・ 昼  ……記憶の世界……


 同時刻、鈴木陽太side



「さて、お前の最終目標をはっきりしておこうか」

「最終目標……?」

「はっきり言おう。お前は1人で2級魔族を倒せるくらいに強くならなきゃいけない」


 1人で……つまりアリスなしでということだろう。


 アリスなしでリリを倒す……これから約3週間でそこまで強くならなければいけない。


「……今、お前の実力はどのくらいだと思ってる?」

「うーん、3級魔族と同じくらいか?」


 アドロとメリッサだっただけな、ソニアと一緒に倒したとはいえ2対2だ。実質俺は1体倒したようなものと考えている。


「残念だがお前は3級以下だ。アドロとメリッサについて考えているようだが、あいつらは特殊だ。2人で3級魔族という扱いだからな。本当の3級魔族ならもっと強い」


 なんで当たり前のように俺の考えてることがわかってるんだよ。


 でもたしかにアドロとメリッサ、そしてリリは強さに差がありすぎだ。

 3級と2級の強さはここまで違うのかと思ったが、そういうことか


「わかったか? お前の最終目標の遠さが」

「あぁ……遠すぎてゴール、見えねえよ」

「ならば焦らなきゃな、ちなみにさっきお前に言った『致命的な欠点』探しは今日中に解決しろ。解決するまではお前だけ夜ご飯抜きだ」

「えぇ!? んな無茶な!!」

「つべこべ言う暇があったら準備している間に考えろ」

「……わ、わかったよ」


 


         ***


「ここでいいだろう」


 移動してきた先は砂漠……ってここ、ゾル・ダマル砂漠じゃないか。

 最近までいたからよくわかる。


 おそらく誰かの記憶……つってもみんな知ってるところだからなぁ


「そうだな……お前にはこいつと戦ってもらおう上級召喚魔法"アタバス"!」


 とてつもない魔力の量がその一箇所に集まってくる。


 やがてそれは形となり、人の形となる。


「リリ……!?」


 それは、2級魔族リリの姿となった。


「とりあえずこいつを倒せ。ちなみに本物との実力差はそこまでないぞ。まぁ、がんばれ」


 実力差はないって……それは不味くないか……


「あ、そうそう。一応言うが、ここで死ねばちゃんと現実で死んだことになるぞ。気をつけるんだな」


「……まじか」


 まぁ、そうだよな、そんな甘いわけないよな。

 俺たちは今、魂だけここにいる。

 つまり、死ねば体は抜け殻ということだろう。


 ……え、怖。


 そんなことを話していると、リリが突っ込んでくる。


「!? アリス!! 魔法を!!」


 俺は咄嗟にアリスに声をかけるが、当然ながら今の俺の中にアリスはいない。


 俺がそのことを気づく時には蹴り飛ばされていた。


「うぉおお!!」


 なんてパワーだろうか、今までは"ブースト"を使っていたからダメージが抑えられていたが、今はバフなんて何もかかっていない。


 リリの可愛らしい姿とは反対にとてつもないパワーで岩に叩きつけられる。


 めちゃくちゃ痛い


「くそ……いきなりピンチかよ……」


 一旦立て直すしかない……


 俺はリリに初級太陽魔法"リャーマ"を食らわせて少し距離をとった。

 ただ、威力が予想以上に低い……これもアリスがいない原因なのだろうか。


 頭の中で色々考えていると、突然リリの様子がおかしくなる


「あれは……"セカンドモード"!?」


 2級魔族が使える"セカンドモード"その変化はとてつもなく、強くなったマリンでさえも凌駕した。


 あの時の戦いは俺には早すぎて見えなかった。


「それもできるのかよ!」

 そんなやつと、俺は、戦えるのか?


 ただ、やることは変わらない。

 1発でも食らったら終わりだ。

 だから遠距離から地道に攻撃していくしかない。


 そして考えるんだ。打開策を


「初級太陽魔法"リャーマ"!!」


 "リャーマ"を数十連発出しながら、距離を確認。

 一定の距離を保ちながら攻撃を加えていく……が、全く効いていない。


 ……やっぱり、魔法の威力が落ちている。


 くそ、俺はアリスがいないとここまでに弱いのか……


 ほんの一瞬の瞬き、そこで勝負が決まった。


 目を開けるとリリが目の前に移動しており、攻撃を加えようとしている。


 そしてモリアはその拳を受け止めた状態でこちらを見ていた。


「そこまでだ……どうだ、何か掴めたか?」


 本当に一瞬だった。

 瞬き一つしただけで、敗北していたのだ。


 ……モリアが止めていなかったら死んでいた。


「……俺ってこんなに弱いんだな、わかってはいたが、想像以上だ。アリスがいなくなって改めて気づいた。俺、予想以上にあいつに頼っていたんだな」


「それも問題点ではある……だが、致命的な欠点はそれではない……もう一度だ」


 まじか、これじゃないのか……俺のメンタル、持つかなぁ


         ***


 そこから俺は何回かリリと戦ったが、一度も勝てていなければ、欠点も探し出せていない。

 それどころか、まともなダメージを与えられていない。


「はぁ……はぁ……」


「そこまでだ。何かわかったか?」


「……攻撃のタイミングが遅い、とか?」


「……もう一回だ」


 もう何十回やっただろうか、モリアが言うにはもう19時30分をすぎている。

 18時夕食だったので1時間30分遅れだ。


 初日から厳しいな、モリアは……


 だが弱音を吐いている場合ではない。

 俺にはサポートとはいえ魔王を倒すという使命がある。

 そして家族……妹を、世界を救うんだ。

 それまでは諦めきれない。


 ……でも何が欠点かがわからない。


 これまで相当慎重にやってきた。

 ……もっと慎重になれ、ということだろうか


「考え方をガラッと変えてみろ」


 ……考え方を?


 モリアの咄嗟の言葉に俺は正解が少し見えた気がした。


 俺はリリに近づき、短剣を取り出し攻撃を加える。


 リリの動きは相当早く全て交わされてしまうが俺は攻撃と共に魔法を詠唱していた。

「初級太陽魔法"リャーマ"!!」


 短剣を手から離し、数発リリに魔法攻撃を加える。


「うぅ……」


 ……ダメージがある?

 今まで効果がなかった魔法攻撃が何故か効いている。


「まさか……」


「……気づいたようだな」


 そこから、リリも反撃をしてきたが、動きが見え、避けれる。


 魔法も使うごとに威力を増し、徐々にリリを追い詰めていった。


「うぅぅ…………」


 リリの様子がおかしくなる……"セカンドモード“だ。


 ……だが、強くなっても今までと変わらずに、戦うだけだ!


 と、戦おうとしたが、モリアが召喚魔法を解く。

 リリの形をしていたものは砂漠の砂の中に溶けていった。

「もう目的は達したからな……わかったんだろ? 答え」


「……今までの戦い方は慎重になりすぎて、距離を稼ぐ、逃げる、様子を見る、を重視した戦い方になってた。ただ、そのせいで魔法の威力も弱くなりメンタル的にも追い詰められていった。たしかに1発食らったら終わりかもしれないが、攻めなければ意味がない」


 そう……だからこの前のリリとの戦いでも、俺は死なないために逃げることを選択しようとした。

 それが悪いことではない……だが、俺はこのことに固執しすぎている。


 今までは"距離を取るための魔法"として使っていたものを"攻撃するための魔法"って考えただけでここまで変わるのかと驚くけど、気持ちってそんなもんだ。


 そりゃあ、戦い方に影響が出るよなぁ……


 こんなことに気づけなかったのが恥ずかしい。


「そうだな、慎重になることは悪いことではないが、その考え方のせいでお前は萎縮してしまっている。後半、徐々に魔法の威力が上がったのも、距離を取るための攻撃からダメージを与えるための攻撃になったからだ。安心しろ、お前自体はちゃんと強い。ただ、考え方のせいで弱くなっていただけだ。今のお前なら3級魔族は普通に倒せるだろう」


「はぁ……」


 安心したら力が抜ける

 達成感……久しぶりだなぁ……


「早く立て、みんなが家で待ってるぞ。……それと、今日はヒントを与えたが、明日からはなしだ。気を引き締めろよ」


 ……厳しいねぇ、でも……すっきりした。

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