25話 記憶の手がかり

・9月16日・ 夜  ……記憶の世界……


 家の前に着いたが……もう20時か……

 みんなはもう食べて早い人は寝てるのだろうか……


「ただいまー、すまん遅くなった……ってうわ!?」


 家に入ると突然アリスに抱きつかれる


「遅い! 待ってたんだからね! っていうかなんでこんな汚いの!! 先お風呂入ってきてー!」


「ア、アリスまだ起きてたのか……ていうか汚いからあまり触るな」


「関係ないもん! 今日はお兄さん成分が足りてないので、補充しなきゃいけないの!」


 と、俺とアリスがわちゃわちゃしていると奥からマリンともう1人のモリアがこちらをじっと見つめていた。


「大変だったぞ……お兄さんに会うために早く終わるんだ、とか言って2時間で基礎訓練を終わらせやがった……」


 もう1人のモリアは疲れた顔をしながらそう呟く

 一体何をしたんだ……アリスは……



 いや、それよりも


「今、基礎訓練が終わったとか言ったか?」


「そうよ! お兄さんに会うために早めに終わらせたのに……!! お兄さん遅いんだもん!!」


 なんか最近アリスの幼児化が進んでないか?

 これではただの駄々っ子みたいになっている。


「私が帰ってきた時にも飛びついてきて、とてもうるさかったんですよ? 『お兄さんじゃないー!!』なんて言って……」


 マリンもげっそりとしていた


 それにしてもここまで早く……まさか1日で基礎訓練を終わらせるってどんだけだよ……アリス……

「ほらほら! 早くお風呂!」

「わかったけど、なんでお前まで入るんだよ」


 アリスは自然とお風呂場へと入る。

「え、お兄さん触ってたら汚れたから」

「えぇ……でもだめだぞ。流石に男と女で同じお風呂に入るのは」

「なら、これならどう?」


 するとアリスは……鳥になった。

 鳥になった……?


「鳥!?」

「そう! これはフンスイドリ! 水の中を泳げる鳥だよ!」

「いや、種類はいいんだけど……一体何が起こってるんだ……」


「私はみんなより長く魂の状態続けてるの、このくらい余裕だよ!!」


 さっきからアリスのすごい話が多すぎて言葉が出てこない。


「これなら平気でしょ?」

「あ、ああ……」


 いや、よくねえよ

 ただ、正常な判断ができないくらいに俺は疲れていたのだろう。


         ***


「お兄さんー、私のことも洗ってー」

「おう……ふさふさしてて触り心地いいな、アリス」


 ただの鳥、そう思うと楽に洗えた。


「私たちのことは気にしないでいいからゆっくり入ってきてください、あとイチャイチャしないでください」


 タオルを置きにきてくれたマリンが、気を遣ってくれる……が、これがイチャイチャに聞こえるのだろうか。


 光景を見てないからわからないだろうが俺が鳥を洗っているだけだぞ。


 ――俺たちは体を綺麗にし、浴槽に浸かる。


 そういえば今日色々ありすぎて、忘れていたが、俺とアリスはいつも一緒にいたもんな……少し離れただけでアリスがこんなに落ち着きなくなるのもわかる気がする。


「なぁ、アリス」

「ん?」

「なんで、フンスイドリって言うんだ?」

「あぁ、それはね、水の国にある噴水から発見された鳥なんだけど、水圧が凄すぎて死んでたの。それで調べたら町中の噴水ほとんどにこの鳥は入って死んでたらしいの。この謎に噴水に入りたがる習性からフンスイドリなんて言われるようになったのよ」


 なんて、エピソードだ。


「怖いから……噴水には入るなよ」

「私の思考はちゃんと人間だよ!」


 こんなどうでもいい話……久々だなぁ



 最近は気を張る話が多かったからか、アリスと喋るこの空間が俺にとってはとても居心地が良かった。

          ***


 アリスと一緒にお風呂から出て、体を拭き、夕食を食べることにした。

 アリスとマリンが夕食を食べずに俺を待っていたのはとても驚いた。


 「ありがとう……でも、いいんだよ気にしなくて」と言うと、「私がしたいからするの!」「全員で食べた方が美味しいですよ」なんて言葉が返ってきて何もいえなくなった。


 暖かいな、この空間。

 敵の魔法じゃなければとても落ち着く場所だ。


 夕食を食べ終えた俺たちは寝るところについて考えていた。


「いいよ、俺下で適当に寝るから」


 俺の部屋をアリスたちに渡して、俺は下の回のリビングで適当に寝ようとしていたが


「やだ! やだ! お兄さんも一緒にここで寝る!」


 駄々っ子だ。

 本当に年齢下がってきてないか?

 アリス……


「我慢しましょうよ、さっき一緒にお風呂入ったんですよね?」


 なんか怒り気味にマリンが言っているが、そんなことも気にせずアリスは駄々をこねる。


「うーん、わかった。じゃあ私がお兄さんと下で寝るよ!」


 あー、逆にね、まぁ、アリスとは何回も一緒に寝てるし、問題はないだろう。


「わかっ……」

 許可を出そうとするが、それは遮られる。

「ダメです。私が陽太さんと寝ます」


 いやなんでだよ。

 もともと3人だと狭いから俺が抜けようと思ったのだが……2人は俺と寝たがってるのか……まだまだ子供だなぁ


「今何か失礼なこと考えたでしょ! 私はもう14だよ!」と、アリス


「私だって12歳ですから!」


 ……意外とみんな歳近いんだな、ただ身長が小さ……いや、目線が怖いから考えるのはやめておこう。


「わかったから! もうみんなで寝よう!」


 川の字で寝るのが決まった。




          ***

 ……なんかこうわちゃわちゃしてると修学旅行感あるなぁ……


 そう思いながら俺は喉が渇いたので外に来ていた。


「えっと、確か想像するだけでよかったんだよな……」


 家の前にある籠の前に立ちとあるものを想像する。


「おお! きた!」


 籠の中に突如現れた黒い飲み物を俺はごくごくと飲み、そして「ぷはぁー」と、息を吐いた。


 久々の炭酸!!


 めちゃくちゃ美味しい!!


 そんな晴れやかな気分で俺は家に戻ると、1つあることに気づく。


 あれ? そういえばここに部屋なんてあったっけ?


 そこには扉があった。

 たしかに詳しく家を調べてないしな、知らない部屋が多そうだ。

 鍵はかかってなく、空いているようだ。


 何気なく開けてみると……そこにはとても高級感のある部屋が広がっていた。


 その光景はテレビで見たことのある王宮の一室だとかそのようなものだった。


 高そうなテーブル、高そうな椅子、ベットはとても大きい。


 お嬢様? お姫様?の部屋みたいな感じだ。


「こんな場所があったとはな……気づかなかった」


 テーブルの上には何も入っていないティーカップが置いてある。

 その横に一つの日記、のようなものが置かれている。


 表紙に名前はなく、中を見ても真っ白だ。

 ただ、破り散らしたような跡があったのが見える。


「……ここも、誰かの記憶なのかな?」


 ただマリンの話からは1度も出てきていない。

 だとしたら、ここは俺かアリスの……?



 もっと色々調べる必要がある。


 ベットの横にある小さなテーブルの上には小さな紙が置いてあった。


 そこにはただ一言……「ごめん」と書いてあった。

 俺は不思議に思うが、言葉が少ないからかあまり印象には残らなかった。


 俺の興味はそこよりもこの部屋にあったもう一つの扉に興味があった。


「もしかしたら……」


 俺の記憶の手がかりかもしれない。

 胸の鼓動が速くなる。


 扉に手をかけた時、俺は一つの視線に気づく。


「お兄さんー、もう寝ましょうよー」


 アリスだ。

「アリス、この部屋に見覚えはないか?」

「え、あぁ……何もわからないよ。それよりもここはまだ調査途中なんだから勝手に入らないでよね」


 そんなことを言われても、この場所のことはさっき初めて知ったのだ。

 教えてくれてもよかっただろうに


「はいはい。明日も早いんですから上で寝ますよー」


 俺が説明しようとすると、それを遮るようにアリスは寝室へと俺を連れて行こうとする。


「ここのベット、広いしいいんじゃないか?」

「だから調査中だって! まだ何もわからないから、まだ安全な上で寝るよ!」


「……わかったよ」


 俺はこの夜、ずっと扉の中のことが気になりなかなか寝付けなかった。

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