18話 真実②

・4月・


 目が覚めると、私は地下に閉じ込められていた。

 手には枷がはめられ、壁に固定されている。


 空気が悪いのもあってか気分が悪い


「よぉ、起きたか……天才魔法使いラピス」


 目が覚めると金髪の髪の悪い大男が椅子に座っている。


「その歳ながら上級魔法を使えるとはあっぱれだぁ! グレンほどではないがよぉ……まぁあれと比べられるのはかわいそうだな」


「だ……れ……?」


 声が思うように出ない。

 この空気のせいだろうか


「1級魔族のザラだ、覚えなくていいぞ」


 改めて自分の状況を確認する。

 拘束され、意識がぼんやりとしている。


 なぜ私は初めて会ったはずの魔族にこんなことをされているのだろうか……


 ……冷静になると同時に、ついさっきの記憶が蘇る。

 燃える家、家族……気分が悪かったはずの体は怒りで忘れられる。


「あ、あ……あんたたち……でしょ!! 私の……かぞ……くを……殺した……のは!!」


「あぁ、そうだよ……つってもやったのはあの爺さんだがよぉ……」


 指を刺した方向を見ると、私の家を燃やし、家族まで殺した老紳士が静かに立っていた。


「!!」


 殺さなきゃ……


 私の思考がそう判断する。


 あいつは生きてちゃいけない、殺さなきゃ


 体はさっきよりも熱くなり、身体中が痒い。

 拘束状態を力づくで解こうとする。


「ほぉ、こりゃあ元気がいい……」


 だが枷は外れず……やがて気づく、自分の体の異常さに


 身体中に黒いあざが模様を作っている。


「はやいなぁ、薬が効いてきた……初期反応だぜぇ! 魔族になるためのなぁ!」


 魔族……? 私が?

 いや、私は人間のはず……魔族になんてなれるわけがない。


「今のうちに驚いとけぇ」


 私はその言葉の意味がわからず、気を失った。



         ***

・6月・


 私が魔族になってからの2ヶ月間、ぼんやりと覚えているのは私が私でなくなっていく感覚。

 妹のことも母のことも父のことも忘れ、私はやがて自分の名前も忘れ、残ったのは殺意だけになっていた。


 そんな中、魔族から与えられた私の役目は殺しの任務だった。


 邪魔な人間を殺し、使えるものは攫う、たったこれだけの簡単な任務だった。

 殺す対象は弱っているものだった。

 非力な子供や老人、病弱な人間では魔族になっても弱いらしい。


 最初は殺す対象は現れず、攫う人間のみ




 そして……ついに私は初めて人間を殺してしまった。

 抵抗もできない寝たきりの女性の腹を腕で貫く。

 近くにはその子供が私に攻撃をしようとしていた。


 その光景を見て……なぜか胸がモヤモヤする。


「なんで……なんでお母さんを殺したのぉぉ!!」


 女の子は近くにあったツボで攻撃をしてくる。


 ツボは私の頭に直接当たり、地面に散らばるが、当然ダメージはない。


 私の頭の中はそれどころではなくなっていた。


(この光景を……どこかで……)


 改めて目の前にいる腹に穴の空いた女性を見る。


 光景が……重なる。

 自分の母親が殺された瞬間と……


 そうだ、私は……人間。

 人間……だった。


 そして人を殺してしまった。


「あぁ……あ……」


 私は自分の手を見る。


 手は真っ赤に染まり、それは明らかに普段かがないような匂いをしている。


 血の匂いだ……


「うああああああああああぁぁぁ……」


 その日、全てを思い出した。


 人間だったこと、家族がいたこと、家族が殺されたこと……そして魔族になり、人間を殺したこと。


 私の精神は耐えれるわけもなく、発狂した。


          ***



・8月24日・


「ここにいる女の子、聞いたかよ……」

「あぁ、聞いた聞いた。なんでも実験途中で精神が崩壊したらしいな……」


 近くから声が聞こえる。

 見張りのものだろうか。


「あれ以来、上はあまり能力が優れた子を取り入れないようにしているらしい」

「なるほどな……」

「というか、この牢屋厳重すぎないか? ここに入ってるのはただの女の子だぜ?」

「馬鹿野郎、こいつ抑えるのにどれだけのやつが殺されたと思ってやがる……」


 私は記憶を取り戻した後、暴れたらしい。

 それはもう盛大に。


 結局は2級魔族であるリリに簡単に止められ、いま、どこかわからない地下の牢屋に捕まっている。


 もう生きるのは嫌だ……死にたい。


 私は捕まってから2ヶ月間、ずっとそう思うようになった。


「それよりもさぁ」


 ボトッ


 何かが落ちる音がする。


「おい、大丈夫か……!?」


 ボトッボトッボトッ


 何かの落ちる音は増え、そして止まる。

 あんなにうるさかった見張りの声は聞こえなくなる。

 そして開くはずのない鍵のかかった扉が開き、ある1人の男が姿を表す。


「君は……そっか、君がラピスだね」

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