17話 真実①

ガードン暦510年・4月16日・ 昼  ……ゾル王国……


「えっと、カカの実2つください!」

「あいよ! いやぁ今日も元気だね、ラピスちゃん!」


「えへへ! まぁね!」


 その日、私はいつものように少し離れたゾル王国まで買い物しにきていた。


 私の家はここから遠い。

 昔は父が森にある食べれるものを取ってきてくれたけど、今、父はもういない。


 ある日突然と姿を消したのだ。



 なので私は寝たきりのお母さんやまだ幼い妹のために週に2回ほどのペースで買い物に来ている。


 今日は特別な日……お母さんの誕生日だ。


「中級土魔法"ヴァイタリト"」


 土でできた人型の形をしたものは、買った食材や花を手分けして運んでいる。


「まぁ、ラピスちゃん。流石の魔法ね! ……聞いたわよ、魔法学校から推薦きてるんでしょ?」


「ありがとうございます……でも、家のこともあるので、入学する気はないんです……」


「あら……そうなのね、おばちゃんが何とかしてあげたいけど仕事があるからねぇ……ごめんねぇ」


「いや、大丈夫ですよ! いつもありがとうございます!」


「おばちゃんにできることは少ないけど……何か困ったことがあったら言ってねぇ」


「はい!」

 この世界には魔法学校が3つある。

 そのうちの1つはこのゾル王国にあるのだ。


 ゾル王立魔法学校……3つの魔法学校の中、特に1芸に特化した卒業生を輩出している。

 学費が安いので気楽に入りやすいが、入学するのは困難だ。

 入る方法は2つ。

 一般試験か推薦だ。


 一般試験は1000人受けて、受かるのは80人ほど、その中でも最高クラスであるSクラスは5人しか受からないほど難易度が高い。


 推薦は承諾すれば入学できるのは確実で、Sクラス適正試験を任意で受けることができる。

 毎年、推薦は5人。

 毎回呼ばれるのが英雄や、魔力の高い国の王子など、実力もあり、ある程度名声を持つものが選ばれる。


 ……今思うとなんで私がここにいるんだろう。


 まぁ入らない予定だからどうでもいいけどね


 それにしても……ここまで噂が広まってるとは思わなかった。


         ***



 買い物を終え、帰宅途中

 私は初めてみる動物に出会った。


「わぁ……綺麗……」


 その動物が通り過ぎた後、思わずそんなことを呟いた。

 立派な角に毛並みの良さそうな白い毛

 まだ子供だったが、わたしにはそれが本で見たことある'ユニコーン'に似ていると思った。


 伝説と言われた10の聖獣の1つ。

 ユニコーン


 昔はとても凶暴だったが、今は大人しくなりこのゾル王国周辺を守っているらしい。


 会えた人はとても珍しい、と言われるほど滅多に現れないので、幸運を呼ぶ聖獣とも呼ばれている。


「はやくお母さんに伝えなきゃ!!」


 私は急いで走る。


 その後ろから土人形達ものっしのっしと、ついてくる。



         ***



 日が落ち始めた頃、ようやく家に着いたが……


 家は黒い火に包まれていた。


 そこに人影が1つ。


「あなたが天才魔法使いラピスですかな?」


 黒い羽の生えた老紳士はこちらを見てそう呟くが、ラピスには何も聞こえない。


 とりあえずあの炎を消さなければ。

 そのことで頭がいっぱいになる。


「中級水魔法"ディア・リュビア"!!」


 手から凄い勢いで水が流れるが、炎は少しもおさまらない。


「ほっほっほ……無駄ですよ。私の炎は未だ消されたことがないのです」


「上級水魔法"メルディア・リュビア"!!!」


 家の周りから水が溢れ出て、それはやがてドーム状の形になり家を囲む。


 そのドームの中は至る所から水が飛び出し、家を壊さないレベルの水圧が火を襲う。


 が、それでも消えない。


「驚きました。上級魔法まで使えるのですね……ふむ」


 老紳士は指をパチンと鳴らすと、火が一気に燃え、家は一瞬にして跡形もなく消え去った。


「お母さん!! ……ルビー!!」


「家族とお別れの時間を用意できなくて非常に申し訳ないですが、こちらも時間がないので」


 そういうと老紳士は液体を取り出し、私の口へと流し込んだ。


「うぅ……げほっげほっ……」


 意識がぼんやりとしている。

 体はとても熱くなり、眠くなってくる。


「では、失礼して」


 老紳士は私を抱え、羽を広げ空へと飛ぶ。


 薄れゆく意識の中で私が最後に見たものは自分の家があった場所だった。


 ……そしてこの日から私は魔族になった

 

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