9話 待ち伏せ

・9月1?日・ ??  ……白い空間……


「ここは……」

「あ、おはよ! お兄さん」



 俺いつの間に寝たのだろうか、前後の記憶がない。

「確か監禁された1人を助け出してそれで……どうしたんだっけ」


「やっぱり記憶ないんだね、あの後、一旦迷宮の方に戻って、おじさん以外みんな寝てるよ」


 寝てる……え、寝てる!? 敵のアジトで!?

 あそこは魔法陣がいくつも置いてあるんだ、誰か他の盗賊がきたらどうするのだろうか


「お兄さん、安心して。魔法陣があった洞窟の穴は全てソニアさんの魔法で封鎖してて、しかも中級の封印魔法を使ってるの。ちょっとやそっとじゃ壊れないよ、それに助けたおじさんがご飯を食べながら見張りをしていてくれてるからゆっくり休んで平気だよ」


「あ、あぁ、ちょっと心配だけどな……それにしても記憶が抜け落ちるほど疲れるものなのか? 今も現実じゃないのに体が動かしにくいし……」


 やっぱりあの魔法陣はそれほどの影響が出るのだろうか、2回通るだけでこれって、相当欠陥品じゃないのか?


「最近魔力が増えてきたとはいえ、まだお兄さんは普通の人よりも少し下くらい……そりゃすぐ疲れるよね、まぁ魔力が回復すればそのだるさはすぐ治るよ!」


 そっか、最近まで忘れていたけど、俺の魔力量は少ないんだったな

「ということで、しっかり休んでね」

「おう……」


 俺には少し気になったことがあった、なのでタイミングでアリスに聞くことにした。


「アリス……少し思い出した記憶とか、ないのか?」

「……少し、ね」


 やっぱりか、いきなり知らない魔法を打ったり、ソニアとのことに関して怒っているとはいて、やたらとくっついてくる。

 今日は少しおかしかった。


「国王様と……お母さん、お父さんが話している夢、だけど国王様はとっても焦っているの……気がついたら国王様はその場からいなくなってて、お父さんとお母さんが無言で抱きしめてくれた、そんな記憶……」


 やっぱりこの前言っていた通り、アリスは昔国王にあっていたらしいな。


「クロイ・ホワイト・サンリスタとかいう名前だったか……アリスは聞き覚え無いのか?」


「いいや、全く」


 まぁ、でも少し思い出せただけでもいいことだ。

 少しずつ思い出す、例え辛い過去だとしても……だってそれはアリスの決めたことだから


 俺も自分の記憶、思い出せるといいなぁ……


         ***


「よし! 魔力回復! 行くか!」


 俺はしっかりと眠り、体調も魔力も万全になった。

 ソニアとマリンも元気そうだ。


 ――俺たちはその日から盗賊のアジト潰しを本格的に行った。

 1日1個、あと残りが3個なので3日かかる計算だ。


 正直、砂漠の秘密ルートを見つけたので時間は大幅にかかっても問題はない。


 2の道にあるアジト、難なく撃破。

 3の道にあるアジト、これも難なく撃破。


 それぞれ、2のアジトには2人のおっさんと1人の女性、3のアジトには1人の女性と2人の少女が監禁されて生き残っていた。

 最初のおっさんも含めると、7人助けたことになる。


 今では全員を迷宮の安全地帯に置いている。

 当然俺たちがアジトを潰しに行くときには他の魔法陣に通じる道は封鎖してある。


 ここ2日間はとてもうまくいっていた……



 そして、予定していた最終日、最後のアジトである4の道のアジトに乗り込もうとしていた。


「よし、最後だ! 気合い入れていくか!」


 今日のメンバーは、俺とソニアとマリンに加えて、最初に会ったおっさん――ディグミアが同行することになった。


 それにしても、ディグミアは顔色良くなったなぁ、3日前なんかあんな死にそうな顔してたのに


「俺を同行させてくれてありがとう、陽太。だいぶ動けるようになったからな……少しでも敵討ちがしたいんだ……」

「……大事な人だったのか?」

「……息子、娘、そして妻だ」


 ディグミアは会ったときから目が死んでいた。

 生きる気力を無くし、死ぬのを待っていたところを俺が助けたらしい。


 どんな気持ちだっただろうか……もう少し早くきてくれれば全員助けられたのに、お前が助けなければ俺は死ねたのに、考えるだけで色々思い浮かぶ


 俺のこの行動は間違っていないのだろうか、助けるのが正しいのだろうか……


「……お前が何を考えているかは詳しくはわからん、だがお前に助けられて俺は復讐する機会を得たんだ。感謝してる。だからそんな顔すんな、胸を張れ」


「ありがとう、ディグミア! よし、行くぞ!」


 正しい正しくないは置いとこう、とりあえずディグミアに感謝されている。

 少しでも救えた人がいるんだ、頑張らなくちゃな


 そう思い、俺は魔法陣に足を伸ばす


         ***


 白い空間も終わり、目を覚ます。


 ……この感覚も慣れたな。

 そう思いつつ、みんなと洞窟の外を見る……すると囲まれているのがわかった。


「しーんにゅーうしゃー!!! そこにいるのはわかっているんだぞ!!!」


 幼い子の声がとても大きく響き渡る。


 4人、待ち伏せていたらしい。


「あれは……リリ!?」


 4人のうちの1人を見ると、アリスを殺した張本人魔族のリリがいた。


「あら、あの時のお兄さん、ごきげんよう。シエスタに殺すよう頼んだのになんで生きているのかしら、まったく、あの子にも困りますわ」

「あれ〜? りりちゃんのおともだちぃ〜?」


 リリの隣には小さい男の子がいた、可愛らしいが、おそらく魔族だろう。

 さっきの大声も彼だろうか


「ほら、あのお兄さんが困ってますよ、皆さま、自己紹介を」


「ぼくのなまえは、コニマ、いちおう2きゅうまぞくで〜す!」


「私は3級魔族アドロです。よろしくお願いします」


「……あ!? すいません! 私はメリッサです! 3級魔族やってます! よろしくです!」


「最後に、私は2級魔族のリリです……あら?」


 リリは俺の隣で手を握っているマリンに目を移す……


「……失敗作さんじゃないですかぁ、こんなところで会うなんて、驚きですね」


 マリンは俺の隣でフーフーと肩で息をし、興奮している。


 まるで威嚇するような……


 その瞬間にマリンはとてつとない速さでリリに攻撃をする。


 マリンはリリを殴り、遠くへと飛ばしていく。


「はは! いいですね! さぁ、失敗作の力を見せてください!!」


 マリンとリリは遠くに消えていく……

「さて、ぼくたちもやろうか?」


 唐突に、戦いが始まる……

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