8話 殲滅

・9月12日・ 夜  ……地下迷宮、1の道……


 分かれ道の1つ目、奥にある魔法陣に到着する。

「みんな、準備はいいか?」

「うん!」


(平気!)


 アリス、ソニアは返事をし、マリンもこくこくと頷く。


「よし! じゃあ行くぞ」

 一斉に魔法陣に飛び込んだ。


 魔法陣の中に入る感覚は、初めてこの世界に来た時の感覚に似ていた。

 夢の中のような白い世界……ただ、少し違うのはどこかに進んでいる感覚。


「あ、お兄さん」


 アリスが近づいてきた。

「アリス? なんでここにいるんだよ?」

「転移している時は睡眠状態に入るらしいね。だからお兄さんはこの白い空間にいるの!」


「睡眠状態ってことは結構時間がかかるのか? 思ったより時間がかかるんだな、一瞬だと思ったよ」


「そんな便利じゃないよ、これは中級の魔法陣だからね、うーん、この感じだと2時間で着きそうだね」


 結構長いな……

「だから……着くまで寝てようねー!」


 目の前に布団が現れる。

 俺を呼んだのはそのためか……


「……よし、じゃあ少しだけ寝るか!」


 色々あったからな、休めるときに休んでおきたい。

 もうこの空間で寝るのはもう慣れた。

 いつも通りアリスと寝るだけ。

 ……ただ、いつもと違うのはアリスがすごくくっついてきたことだ。

 おそらく、砂漠でソニアと一緒に寝たのが原因だろう。


         ***


「!?」

 目を開けると洞窟だった。

 さっきまでアリスと寝ていたのに、気がつけば立っている。

 周りにはソニアとマリンもいた。

「みんな、平気か?」

「んーーー、っと! やっぱり疲れるわね!」

 ソニアは大きく伸びをしている。


 マリンは特に何もリアクションはなく、俺の手を握っている……大物だなぁ


 俺はそこで気づく……ソニアの言う通り、体がとても疲れている。

 寝起きっていうのもあるだろうが……それとは何か違う気がする。

 そう、例えば魔力切れの時のような脱力感……


 いや、それより早くしないと、監禁された人たちが殺されてしまうかもしれない。


「みんな、動けるか? いつ盗賊達にバレるかわからない、慎重に行くぞ!」

「オッケー!」


 洞窟は短く、すぐ抜けられた。

 だが外に出ると真っ暗で、建造物などに置いてある松明くらいしかまともに見ることができない。

 ただ作りは転移前のところとほとんど同じっぽいな。


「暗いな……どうしようか」

「うーん……」

 人の気配は……なんとなく感じる。


 慎重に動きたいとは言ったが、ここまで真っ暗だと、気づかれているのかすらわからない。


 すると前方から打撃音が聞こえる。

 しばらくすると叫び声も聞こえてきた。


「何者だ!? ぐわぁ!?」

「ぐぇえええ!?」

「あぶっ!?」


 至る所から叫び声は聞こえてくる。


「一体何が……?」


 ソニアがそう言うとともに、俺は1つ大事なことに気がつく。


 手を繋いでいたマリンがいなかった。


「まさか……」


 やがて、叫び声は消え、代わりに前方からマリンが笑顔、しかも血を被った状態で現れた。


「きゃあ!?」

「うわぁ!?……ってやっぱりマリンか」


 まじでビビるわ、というかマリンは暗い中でも目が見えるのだろうか……今のところ戦闘面で何1つ悪いところが見当たらない。

 むしろ1番活躍している。


「ありがとうな、お手柄だぞ……でも、ほどほどにな」

 俺は微笑みながら、マリンの顔の血を拭く。


「よし! 綺麗になった! マリン、もう敵はいないか?」

 マリンはこくこくと頷き、俺の手を再度掴む。

 この光景を見ると、普通の女の子なんだけどな


「さて、それじゃあ捜索だな。まぁ平気だろうけど、一応警戒しとこうか、全員で固まって動こう」


「わかったわ!」


 俺は太陽初級魔法"サンライト"を使い、足元を照らしながら歩く。

 いろんな建造物を見ていくが、やはりどれも似ている。


 ――やがて、1つの建造物を見つけた。

 そこからは他の建造物とは違う雰囲気を感じた。


 建物の入り口は鍵がかかっていた。

 なので、ソニアが魔法でぶち壊し、中に入ることになった。


「ここだな……」

「陽太、平気? 私が見ようか?」

「……大丈夫だ。見てくる。マリンを頼む」


 俺は"サンライト"を使えるので、とりあえずマリンをソニアに預け、俺だけが建物内を見ることにした。


 建物内はやはり暗く、灯りもない。

 俺は"サンライト"を唱えている指先を鉄格子の中に入れ、部屋をひとつひとつ確認する。


 部屋の数は3個ある。

 1部屋目は倉庫のようなところ、2部屋目は拷問器具?のようなものが置かれ、3部屋目を見ると……


 やはり強烈な匂いとともに目に入ってくるのは幾つもの死体だった。

「うっ……」


 俺はしっかりとあたりを見渡す。

「誰がいるのか……?」


 中から、男の掠れた声が聞こえる。


 やはり生存者はいた!!

「!?  今、助けますからね!」


 俺は自分の体に"ブースト"をかけて、鉄格子を思い切り曲げようとするが、思った以上に頑丈だ。


(中級太陽魔法"ダブル・ブースト"!)


 力が今まで以上にみなぎる。

 アリス、いつのまにこんな魔法を……?


(元々使えてたやつだよ、そんなおかしくないでしょ?)


 俺の体でできるのがおかしいと思うのだが……まぁいいや、とりあえず今は鉄格子だ。


「ぐぬぬ……ういしゃ!」


 鉄格子は人が通れるくらいに横に曲がる。

「えっと、立てますか?」

「あぁ、すまない」


 よく見ると30ほどに見えるおじさんで、体は痩せ細り、目は死んでいた。

 手を差し伸べると握ってくれるが、力がとてつもなく弱く、しわくちゃだ。

 こんなに弱って……


「陽太おかえり……見つけたんだね、1人」

「あぁ……」


「とりあえず、1つ目の転移先は1人だったけど……助けられた。 この調子で……あれ?」


 俺はフラフラして倒れかける。

「色々あった上に、転移魔法陣を潜ったからね、結構疲れているはずよ。また明日にしようか」


(あとは"ダブルブースト"の影響もでかいよ)


 "ブースト"でも多少疲れるからな、その上の魔法となるとかなり疲れるのもわかる。


「転移魔法陣が原因の1つなのか?」

「そうよ、あの量産型の魔法陣は自分の魔力を使うから、ごっそり魔力が持っていかれるわよ」


 量産型とかあるのかよ……



 じゃあ俺の家にあったあの魔法陣はなんだろうな……俺はずっとそのことが頭に残っていた。

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