5話 盗賊
・9月12日・ 昼 ……ゾル・ダマル砂漠……
あの男3人は平気だろうか……まさかここまでマリンが強いとは……
「マリン、平気か? ……それにしても強いんだな」
頭を撫でてやるとマリンはにっこりとして、手を繋いでくる。
(本当に小さい子に好かれるよね、お兄さんって)
(静かに怒るのやめてくれない!? 怖いから!)
俺は砂の中から男3人を探そうと、あたりを探す……だが発見したのは男3人ではなく、巨大な窪みだった。
その窪みの中には建造物が幾つかあり、人の姿も少し見える。
「おい、ソニア」
俺は小声でソニアに話しかけた。
「なーに? って、え、こんな砂漠の真ん中に……村?」
「いや、どうやら村と言える感じではないな……」
周りには男しかおらず、全員あの男3人のような格好をしている。
「おそらく……盗賊のアジトよ」
あの男3人もやっぱり盗賊だったか、それにしてもなんでこんなところに……
「私、ちょっと行ってくるわね」
「ちょ、危ないって!」
「大丈夫! 私は隠れたり忍び込んだりする魔法が得意なの! 任せて」
と言うと、ソニアは消えてしまった。
――5分後、ソニアはまだ帰ってこない。
――10分後ソニアはまだ帰ってこない……
と、そわそわしていると、マリンが服の裾を引っ張ってくる
「ん? なんだ……ってえぇ!?」
もともとアジトがあったところはでかい植物でほとんど埋まっていた。
この魔法……明らかにソニアだ、何かあったのだろうか
俺はマリンと一緒に窪みの中へと下っていく
「ソニア! ソニア! 大丈夫か!!」
盗賊達はピクリとも動かず、倒れている。
ソニアを探し始めて数秒、ソニアを見つけることができたが、
「陽太、あれ……」
ソニアの指差す方向を見ると、1つの建造物がある。
鉄格子のようなものがあり、そこからはとてつもなく鼻につくような匂いがする。
妙な寒気がする。
その建造物からは異質な空気を感じた。
冷や汗をかき、息が乱れる。
それほどの場所だった。
一体何が……鉄格子の中を覗くと、死体、死体、死体、死体……部屋の至る所に死体が置かれていた。
「……え」
頭のない死体、人の形をしていない死体、体全てがバラバラになっている死体……人かどうかも分からないほどぐちゃぐちゃにされているものもあった。
この世界に来て、事態を見慣れていない陽太にとってこの光景はあり得ないものだった。
「うっ……」
陽太はたまらず、口を押さえる。
「……盗賊たちは、砂漠を横断しようとする人たちを監禁して、売る。そんなことをしているらしいわ……それで反抗する人がいたら、その人を実験に使っていたらしいよ」
ソニアは声を震わせている。
同じ人とは思えない行為に、ソニアはキレていた。
「私は盗賊たちに売っている先を聞き出そうとしたけど……動いていた盗賊たちは皆、死んでいて、何者かに操られていたことがわかったわ……」
死んでいる……?
「死霊魔法か……?」
俺は声を絞り出し、答える。
「おそらくね、でもおとぎ話の中にあるような魔法よ、普通なら信じられないけど、この光景を見れば納得もできるわ」
(アリス、本当に死霊魔法なのか?)
俺はなんとか意識を保ちつつ、アリスに声をかける。
というかアリスはずっと村にいた人間だ。
この残酷な光景は見ても平気なのだろうか……
(大丈夫だよ、お兄さん。 ……死霊魔法っていうのは本当みたいだよ。 人を操るなんて、死霊魔法しか聞かない……でもまさか、私以外にも使える人がいたなんて……)
アリスは平気らしいが、俺はもう限界だ。
怒っているし、恐怖もしている、複雑な感情が混ざり合って、俺は混乱していた。
「すまんソニア……少しだけここを離れさせてくれ」
「うん、少し待つから落ち着いたら呼んで、私も落ち着かないと」
「少しマリンを頼む……」
マリンはこんな時でも何も分かっていないようだった。……いや、わからなくて良い、こんな光景……
***
「とりあえず、整理するわね」
俺とソニアは落ち着き、情報共有をしていた。
「盗賊たちの言ってたことは、3つあるわ。1つ目は監禁と、監禁した人たちの売り飛ばしについて、2つ目は王国の誘拐事件について、3つ目はここの地下迷宮について」
「王国の誘拐事件……やはり何か関係があるのか……」
国王の話だと、誘拐事件は魔王の仕業らしいが……もしかして、この砂漠の人攫いや殺しについても魔王の指示なんじゃないのだろうか。
……まぁそれは魔王に会ってみればわかるかな
「それと地下迷宮ってなんのことだ?」
「盗賊の人たちによると、あそこの入り口から地下に続いている迷宮に入れるらしいよ……」
ソニアの指した方向を見ると、洞穴があり、そこから階段が下へと続いている。
確かこの世界の迷宮っていうのは……アリスの話だと、昔の人が作った建造物のことだよな……
「なんで盗賊たちはこの迷宮の近くを拠点にしてたんだろう……迷宮について他に何か言ってたか?」
「いや、特に何も」
「……あ、もしかして」
「わかったの?」
「いや、もしかしたら他に監禁されている人が迷宮の中にいるかもしれない、と思っただけだよ」
「……まだ助けられる人はいるかもしれない……行ってみる価値はありそうね」
待てよ! 危険だろ!とは言えなかった。
あの残酷な光景を見た後だと、行くという選択肢しか俺たちの中にはなかった。
あんな光景はもう2度と見たくない……その思いが強いからか、俺は少し寄り道にはなってしまうということすら俺は考えなかった。
「マリンは俺から離れないように」
マリンはコクリと頷き、手を握る。
俺たちは迷宮の中へと入っていった。
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