18話 VS.スケルトン

・8月29日・  昼   ……サンリスタ城、謁見の間……




「其方にはこれから1体の魔物と戦ってもらいたい。少し実力を知りたくてな」




 戦闘!? ……確かにこの世界に来てから戦闘はいくらかはしてきたが、ほとんど逃げてきたのでまともに戦ったのは数回でしかない。




 ていうか実際敵を倒しているのはアリスだし……




(……ん? アリス?)




 アリスから複雑な感情が流れ込んでくる。




(……え? あ、いや、なんでもないよ……戦闘なら私に任せて!)




 なんかぼーっとしてるな。


 アリスは戦うつもりらしいが……どうしようか




「安心しろ、弱い魔物だ。其方でも倒せるであろう」




 この国王は俺の心でも見えんのかよ!……ってくらい先に言ってくれるなぁ。流石国王と思っておこう




「わかりました。戦います」




「ふむ……では我について来るのだ」




 国王と大臣の向かった先は地下の闘技場と呼ばれるところだった。


 闘技場では想像通り円形で観客席もある。




 国王は観客席に座り、大臣は「魔物の準備をしてきます」と、奥へと消えていった。




(アリス、準備はできているか?)




(……えぇ、大丈夫)




(本当? さっきも様子がおかしかったけど……)




(気にしないで! 戦い方はいつも通り私が先に出るね!)




(了解)




 ――数分後奥から人影が現れる。




 大臣……かと思ったが、大臣はいつのまにか観客席で国王の隣に座っている。




 ……するとあれは




 そこには骸骨がいた。




 皮の布を着て鞭を持っている……がボロボロだ。


 骨は至る所にヒビが入っており、何かで叩いただけでもすぐ崩れてしまいそうだ。




 手の骨の方を見るとボロボロの指輪をしている。


(魔物でも指輪をする習慣とかあるのかな)




(1部の魔物にはそう言うのがあるらしいよ、本当に稀だけどね)




「その魔物はスケルトンと言います。まともに戦うと強いのですが今回は少し弱らせてあります。安心して戦ってください」


 と、大臣が言うと


 スケルトンが襲いかかってきた。




(アリス!)


(任せて!)




 体の所有権がアリスに移り関わる……




 アリスは手を前に出し「初級太陽魔法"リャーマ"!」と言い、火の玉を8発ほど打ち込む。




 スケルトンはそのまま突っ込み火の玉8連発を鞭で薙ぎ払っていく。




(え!?)


 俺は驚くがアリスは怯まない。




「初級太陽魔法"ブースト"!」




 スケルトンはそのまま鞭の連続攻撃をしてくるがブーストを纏ったアリスはこれを次々と避ける。


 それどころか短剣を手に持ち少しずつ反撃をしている。




 少しずつだがスケルトンはダメージを負っているようだ……これならいけるかもしれない!




 と思った瞬間にアリスはスケルトンから離れる




(お兄さん、もう時間だよ。多分お兄さんでも大丈夫だと思うけど、気をつけてね!)




(もう時間か、わかった! 任せろ!)




 アリスは即座にブーストをかけ直し、インターバルに入る。




 体の所有権が俺に戻ってくる……




 正直戦闘力でいったら俺はアリスには全然及ばない。


 魔法も使える回数が少ない。


 なので俺は魔法を温存しつつ戦わなければならない。




 俺は短剣を取り出し、スケルトンに向き合う。




 そのままスケルトンに連続攻撃をたたみ込む。


 上から下から右から左から様々な方向からできるだけ素早く動き、ダメージを与えようとする。




 ソニアから短剣は教わったとはいえ、まだ浅い。


 なので俺はこのブーストで上がったスピードを武器にするしかなかった。




 ブーストはやはり万能で、スケルトンの動きが目ではっきりとわかる。




 全ての時間が止まったかのように俺の目には見える。




 だがやはり短剣では大したダメージは出せない。


 俺は余裕のあるうちに考える……そして思いつく、この方法ならいけるかもしれない。


 新しい魔法を使う機会がようやく来たのである




 俺はブーストが切れるギリギリまで攻撃をたたみ込みつつ、一つの魔法を唱える。




 そして短剣の連続攻撃を止めるとスケルトンがものすごいスピードで反撃をするが、鞭が当たったはずの俺の体は煙となって消える。




「もらった!」




 俺はスケルトンの後ろから構えていた弓で矢を放つ。




 スケルトンの頭に矢が貫通する。




(流石ナチル特製の矢だな)




 ナチルからもらっていた土の矢はとても頑丈でスケルトンの頭蓋骨でさえも貫通した。




 スケルトンは膝から倒れた。




(ふふ、覚えたての幻覚魔法を使える機会があってよかったね!)




(あぁ!)




 今使ったのは初級幻覚魔法"イリュージョン"、ソニアやアリスとの特訓で使えるようになったのだ。




 俺は動かなくなったスケルトンを見て観客席のところへ行こうとした。すると……




(お兄さん! 危ない!)




 後ろを見ると俺が隙を見せた瞬間に背後からスケルトンが鞭で攻撃しようとしていた。




 ……くそ! 油断した!


 粉々にしておけばよかったか……!






 くっ……当たる……!!






 瞬間、スケルトンが炎の渦に包み込まれる。




「……っ!?」




 何が起こって……




 やがて炎が収まり、スケルトンは跡形もなく消え去っていた。




 ……いまのは……?




(お兄さん……)




「戦闘が苦手と聞いていたので、初級魔法しか使えないと思っていましたが、中級魔法も使えるのですね、ははは、驚きましたよ」




 大臣が拍手をしながら寄ってくる。




 俺が……炎を出したのか? いや、でも魔法を唱えたりはしていない。




 まさか……




(アリスか?)




(……私も咄嗟のことであまり覚えてないけど、多分そうだと思う)




(でもまさかあんな土壇場ですぐ体を入れ替えられるとは、流石アリスだね)




(……不思議なんだけど、私まだインターバルだったから体は乗っ取れてないんだよ)




(……そしたらなんで)




 この魔法が出たのだろうか……


 まさか……




 と、考え込んでいると、国王が話しかけてきた。




「いいものを見せてもらった……この後だが、一度謁見室で計画の確認だ、一旦戻るぞ」




 国王がその場から立ち去る時少し寂しそうな……そして嬉しそうな顔をしていた気がした。


 まぁただの気のせいだろうが、少し気になった。




 俺も行こうとしたその時、ある固いものを踏んだ。




「これは……」




 スケルトンの身につけていた指輪だ。




 あの炎の中でもこんな綺麗に残っているのか


 よくよく指輪を見てみると、美しい。




「早く行きますよ」


「あ、すいません!」




 大臣の声により指輪に見惚れていた俺はその場を後にすることになった。




 「ありがとう……」




 どこからかそんな声が聞こえた気がした。






         ***




(やべえよ、持ってきちゃったよ……)




 俺は大臣の後ろを歩きながら、アリスに話しかけていた。




(魔物がつけていた指輪を持ちあるく物好きはお兄さんくらいだと思うよ……けど、綺麗な指輪だね)




(そうだよな……そういえばアリス……)




(ん? なに?)




(さっきスケルトンにした魔法のことだけど)




(あぁ、あの時の)




(多分……だけど、アリス、いまの状態のまま魔法が打てるようになったんじゃないか?)




(……へ? いやいや、そんなまさか! だってそんなことできたら……)




(いいから少し使ってみろよブーストでいいから)




(できなくても文句言わないでね! 初級太陽魔法"ブースト"!)




 ……やっぱりな




(アリス! やっぱり成功してるぞ!)




(えぇ)




 アリスが驚くのも無理はない。


 基本魔法を詠唱するのに結構時間がかかるし、出す魔法を口で言うため、声を張っていると相手になんの魔法を使っているかバレてしまうのだ。




 なので俺たちは実質無詠唱魔法を習得したといっても過言ではない。


 俺が戦いながらアリスが詠唱すれば短縮できる。




 いわゆる並列思考ってやつだ。






 結構ぶっ飛んでるなぁ……




(……でもなんでできるようになったんだろうね)




 ようやく現実を飲み込めたか、アリス




(いや、わからない……)




 気になることが増えた。


 また今度図書館に行こう




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