1章 エピローグ 誓い

・8月29日・  夜   ……サンリスタ城、謁見の間……



 俺はスケルトンとの戦闘を終え、謁見の間へと戻っていた。

 窓を見ればもう暗い、そんなに長くいたのかと思うほど。

「今日から数え2週間後に出発せよ」


「わかりました……でも」


「其方の考えはわかるぞ、故郷が心配なのだな」


 本当この人は……なんでもわかるな


「安心するが良い、其方の故郷は3ヶ月間は平気だろう。情報班の話によれば12月23日に魔族は其方の世界に対して攻撃を仕掛けるらしいからな」


 3ヶ月後……いったいどこからそんな情報を仕入れるんだと思うくらい、国王は有能だ。


 って、攻撃……か

 自体は思ったよりも深刻かもしれない。


「わかりました……2週間後に旅立ちます」


「うむ……それまでに旅の支度を整えておくんだな」



 俺は謁見の間を後にした……


         ***


 俺たちは図書館に寄ってから宿屋に帰ろうとしていた。


(……予想してなかったな、魔王が親玉ってこと)


(……うん……あのね、お兄さん)


(ん? なんだ?)


 アリスにしては珍しく歯切れが悪い……もしかしてさっきぼーっとしてたのと関係あるのだろうか


(多分……私、国王様と前に会ったことあるかもしれない)


(前って……村にずっといたんじゃないのか?)


(そのつもりだったよ……? でもね、気づいたの、私は、村の外に出たことがある……王様に会ったときにやっと認識したの……私は少し前の記憶が抜けてるってこと……)


(それって、もしかして記憶喪失……?)


(うん……前の村での出来事は自分の意思で記憶から消していたけど……今回は違う、自分で認識できても思い出せない……)


 記憶がないか……


(国王様に初めて会うのに、違和感があったの……考えて考えて、冷静になって、そして記憶が流れ込んできたの……私が小さい時に国王様と話す記憶、ほんの少しだけどね)


 だから国王に会ったときにあんな態度だったのか……


(お兄さん、お願いがあるの)



(……私お兄さんの手伝いをするだけの予定だったけど……私、知りたい! 自分の失くした記憶を! たとえそれがどんなに辛い思い出でも、私はもう消したくはない! だからお願い! 今回の旅が終わったらでいいから、私の記憶を取り戻すのに協力して欲しいの! ……私、もうお兄さんしか頼れないの!)


 アリスは、あの村の件からほんとに成長した。

 自分自身でとはいえ、1度記憶を失ってたアリスからしてみれば、理由はどうであれ、記憶を失うのはもう嫌なのだ。

 村での辛い記憶を乗り越えられたからこそ、アリスは俺に頼み事をしているのである。


(……俺もアリスに話しておきたいことがあってな)


 俺は家族、親友にしか知られていない秘密がある……家族といっても、妹は知らないだろうが







(実は俺も……7歳よりも前の記憶がないんだ)


(え?)


(親父や母さんに記憶のことを聞いても教えてもらえなくてな、7歳の時はずっと泣いてたよ。まぁそこは親友が助けてくれたんだがな)


 親友には世話になりっぱなしだったな……


(俺は立ち直ってからはずっと自分の記憶を探してた……親に記憶を探していたことがバレても、ずっと探したが、未だに見つからない)


(お兄さん……)


(俺はアリスと一緒だ……だから……)


 正直、諦めかけていた記憶探し。

 今までずっと1人で追ってきた。

 でも今は……アリスがいる。


(俺と一緒に探そうよ、失くした記憶。そしていつか……)


 俺が今ここにいられるのはほとんどアリスのおかげだ。

 俺がこの子に返してあげれるものとすれば記憶と……


(代わりの体も探さなきゃな!)


 これは図書館に行ったときに〈魂の研究〉の本をみたときに分かったことだ。

 魂は移すことができる。

 方法はわからない。でも理論上は可能と書いていた。

 必ず見つけてやる、俺は強く思う。


(……うん! でもまずは魔王討伐からね!!)


 アリスの感情が激しく伝わってくる……

 それは喜び、信頼、愛情、諸々、

 少しでもアリスの力になれるなら、いいな


 俺は暗闇の中キラキラ光るサンリスタの街を見ながらそう思った。

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