閑話 あの日……親友side

親友side、1話の裏話です。


・8月19日・ 昼  日本




 ハンバーガー専門店「ラブバーガー」この店は誰もが知るフード店で有名だ。


 その店内はやはり人気店ということもあり、人が多い。


 その中で……木村真奈きむらまなは窓の外を見ていた。


 黒髪で髪は長く、肌は白いスレンダーな女性。


 普段であれば容姿が美しい彼女はよく声をかけられる。


 それはナンパ目的だったり、モデル勧誘だったり……だが、今の彼女の目からは生気が消え、周りが声をかけられないくらいとても暗い。




「もうそろそろ3週間になるか……」


「……」




 彼女の前に座る男……新田徹也にったてつやは真奈に向かって話す。


「俺も正直何が起こっているかわからねぇ、けど信じようぜ。あいつはどこかで生きてる」




 徹也はいわゆるゴリマッチョだ。


 しかもガタイのいい体からは想像できないほどの頭の持ち主でもあり、テストでは学年6位というほどだ。


 ただ、そんな彼も内心ではとても暗い。


 だがそれを目の前の真奈にはバレないよう無理して隠している。


「「……………………」」




 真奈は静かに空を見ている。


(なんでこんなことになっちまったんだろうな……)


 と、徹也も真奈の目線の先にある空に目を向けた。


 とても不気味で禍々しく赤い空。


 このような天気が最近多くなった。


 もちろん晴れの時もあり、このような天気は滅多にないが、ここまで不気味だと街ゆく人のも不安が多い。




 それもあの日から……


 その空を見ながら徹也は18日前のことを思い出していた……




・8月1日・ 夜  徹也の家




「うぅ……眩しい……」


 部活から帰り疲れて寝ていた俺は目が覚めた。


 何だ?


 目を開けてみると窓から光が漏れてる。


 ……あの方向は……陽くんの家?




 陽くん……鈴木陽太すずきようたというのは俺の親友だ。


 真奈とも親友で小学校から3人でずっと遊んでいた。


 正確にはもう1人いたんだが……まあそれはいい。




 俺は、その光から目が離せなかった。


 10秒ほど経ち、静止していた俺は慌てて家を飛び出した。


 それはあの光の後、爆発音が聞こえたからだ。




 普通に過ごしていたらあまり聞くはずのない爆発音に、俺は焦りながら走る。




 俺の家から陽くんの家は歩いて10分ほどだが、全速力で走り、俺は5分で着くことができた。




 ……陽くんの家は崩壊していた。


 元々あった2階建ての家はなくなっており、何かに押しつぶされたように崩れていた。


 その目の前で1人の少女が泣いている。


 「雅……ちゃん……?」




 そこにいたのは陽くんの妹である鈴木雅すずきみやびちゃんだった。


 ただ、俺の声は聞こえないらしく、ぶつぶつと何かを言っている。




「許さない……許さない許さない許さない……許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない絶対に絶対に絶対に許さない……」




 目からは光が無くなり、体の力が抜けている。


 そこにあるのは憎悪、怒りそのもの


 普段の雅ちゃんからは想像できないような言葉の羅列に俺は動くことができなかった。




 ……何が起こって……?


 パニックになっていると、老婆の声が響いた。


「だから、言ったじゃろ?」


 気がつくと雅ちゃんの隣に老婆がいる。


 ただ、空気に溶け込むように自然にそこに居た。




 俺は反応が遅れて雅ちゃんに声をかけようとした。


「雅ちゃ……ん……」


 そこにはもう誰もいなかった……




 それと同時に後ろから声がする。


「徹也……これは、どういうこと……?」




 真奈だ。


 よくみると息を切らしている。


 急いで駆けつけたんだろう。




「……お、俺もさっぱりわからねえ、着いたらもうこの有様だった」




 俺は少し遅れながら反応し、声を絞りだしながら応える




 すると真奈は無言で崩壊した家の方へ行き、何かを探し始めた。


 ……おそらく陽くんのことだ。




 俺も真奈に続き陽くんを探した。




 だが、人影の一つすら見つからなかった。






 ……やがて雨が降り、警察が集まってくる。




「君、大丈夫か!? ここで何があった?」


「俺が来た頃には家が崩壊して……俺も、何が起こっているかわからないです……」




 俺は冷静に答えようとするが、声が震えてしまう。


「ありがとう。また詳しい話は署でお願いできるかな?」


「わ、わかりました」




「後は僕たちに任せておいて」


 警察はそう言うと、崩壊した家の中を調べに行った。




 とりあえず警察に任せようと、真奈の方を見るが、




「離して!! 離してよ!! まだどこかに陽くんがいるはずなの!!」


「君、気持ちはわかる。もう後は僕らが探すから、とりあえず離れなさい!」


「嫌だ!! もう誰も失いたくないの!!」




 真奈はびしょ濡れになりながら……みるからに体調が悪そうにして、叫んでいる。




 警察が真奈を下がらせようとするが、真奈は抵抗している。




「おい、真奈、大丈夫だから、ここは警察に任せようぜ」




「もう私には……陽くんと、徹也しかいないの……だからお願い……」




 そう言うと、真奈は倒れた。




「真奈!」


 真奈の体が冷たい……無理もない。


 雨の中必死に探し続けたからだ。


 警察もなぜか来るのが遅かった。






 その後、救急車が来て、真奈は運ばれたが、体には特に問題はなかった。




 だが、真奈の心の傷はとても大きなものになっていた。


 あの日から真奈は誰とも喋らない……


 俺ですら声を聞けていない。








 そして陽くんと陽くんの家族は結局見つからなかった。




 俺はこの2週間ほどの間、陽くんの手がかり探しと真奈の心のケアに努めた。




 手がかりの方は自力で探そうとしたが、何も見つからなかった。


 なので、仕方がなく探偵に頼むことにした。




 とても変な人だ。


 自分のことを超能力者だとか言ってるし……とても不安しかない。




 一応自分でも探しているが、収穫はなし。


 頼るしかない……か。




 真奈はと言うと、最初の1週間は引きこもっていた。


 俺は何度か真奈を訪ね、なるべく一緒にいるようにした。




 なんとか、外に出れるくらいは回復したが、まだあれから声を聞いていない。


 医者が言うには、ストレスによるものだとか。




 真奈は親を失っているため、頼れる人が少ない。


 親戚の1部は1度は様子を見に来たものの、それ以降は来ない。




 わかってはいたが、現実はきついな……






         ***




 もうすぐ夏休みが終わる。


 学校が始まれば俺は動きにくくなる。




 なるべく手がかりを夏休み中に探すんだ……そして、陽くんを見つけてみせる。




 プルルルルル……プルルルルル……




 急に電話が鳴った。




「わりぃ、電話」


 俺は真奈にそう伝え、電話の主を見てみる。




 "東家阿久津とうげあくつ"


 探偵さんか


 何か情報を見つけたのだろうか




 ピッ……


「東家さん。お疲れ様です。何か見つかりましたか?」




「えぇ、陽太くんの家族を目撃したと言う情報を見つけました」




 ガタッ!




 俺は席を立ち上がる


「今すぐ行きます! どこですか?」




 ……陽くん、必ず見つけてみせる。

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