10話 ソニアとナチル

・8月17日・ 夜  ……リスタの森……




「なるほどつまり君たちはサンリスタ王国を目指しているわけか……」


 と短剣を持った女……ソニアがふんふんと頷く。




「僕たちもさっきちょうど知り合ってね、目的地が同じだったから一緒に行こうとしていたんだ。そんなところで人の気配を感じてね、そしたら君たちがいたんだ」


 と眼鏡をかけた緑髪の男……ナチルがニコニコしながら話している。




 とりあえず俺はミューに言われた通りに俺の元いた世界のこと、そしてアリスのことは話さないで、最小限のことだけを伝えた。




 故郷に帰るためにサンリスタ王国にとりあえず向かっている、と


 軽く自己紹介をしたところ、どうやら彼らはサンリスタ王国近くにあるリスタ遺跡に用があるらしい。


 なので途中までの付き合いということで一緒に行動することになった。


 ちょうどミューの占い通りだしな。




「陽太……で良いのかな? もうそろそろここらで野宿した方がいいと思うけど、君はどう思うかな……?」




(ナチルさんの言う通り、野宿した方がいいと思うよ)


「そうだな、今日はここまでにしよう」




 こんなふうにアリスは心の中で僕に色々助けてくれる。




 正直俺は森、いや、そもそもこの世界のことを何も知らない。


 だからこういう時にアリスに任せることは情けないことだがものすごく頼りになる。




 ましてやここは魔物のいる森、俺たちの世界とは違う。


 アリスのほとんどの知識は家の本らしいが、俺の知識よりは全然ましだろう、と思っていたが舐めてはいけなかった。


 家にしかいなかったのに驚くべき情報量だ。


 普通の家庭に生まれていたらその記憶力の良さで天才と言われて育ったかもしれない……




 アリス……恐ろしい子!!






 ……そして俺の想像だが、アリスの親は何かあった時のために役に立ちそうな本をアリスにたくさん残していたんじゃないかと思う。


 本を見たら何となくわかった。

 『1人でできる〇〇』、『簡単! 〇〇』


 などの子供向けかつ1人で学べるようなものが大半だったからだ。




         ***






 食料はソニアが取ってきてくれた。


 森のきのみやらなんやら、魔物や動物まで狩ってきている。


 動物は基本鳥、魔物はイノシシのような魔物だ、名前はセルボーダと言うらしい。


 セルボーダの肉は柔らかく美味しい。


 だが塩胡椒あたりが欲しくなるな……


 あと米、


(なんか、不思議な感覚……食べてないのに味がわかる……)


(それ、アリスが入れ替わって食べても同じなのかな?)


(後でやってみようよ!)


「お……」


(おう)




 あ、あぶねえ


 まだ慣れてないからか、アリスに話しかける時、思わず声が出そうになる……危ない、速く慣れなければ。


 でも俺は心の中で話してるから良いけど今現実ではみんな無言なんだよな……




「あの、言いづらいなら話さなくていいけど、リスタ遺跡で何をするの?」


(あ、それ私も気になってた)




 俺は仲良くなろうと思い、2人に声をかけることにした。


「あぁ、僕はちょっとした調査だよ」


「私は、依頼でね」


 ナチルはニヤリと笑いながら、ソニアはセルボーダの肉を片手に言った。




「最近あそこは魔物の動きが活発でね、近づいた冒険者たちが毎回ボロボロになって帰ってくるらしいよ」


「ナチルは……こう言っちゃ悪いが、君は見た感じ俺と同じで戦闘に向いて無いと思うんだが、大丈夫か?」


 俺はストレートに聞いた。


 申し訳ないがナチルの体は細く、俺ほど弱そうだ。




「はは、よく言われるよ。でもね、僕はこう見えても腕に自信はあるんだよ」


 と、ナチルは眼鏡をクイッとした。


 まぁこの世界のことだ、まだ謎が多い……いろんな人がいるんだろう、ナチルの強さは信じれないが。




(あの人が強いのは……多分本当だと思う)


(ふーん、俺には分からん)




 アリスには何かわかるのだろう


 アリスが認めるってことは結構強いのかな




「ねね、話変わるけどさ、サンリスタ王国の黒い噂、聞いたことある?」


 ソニアが急にダークな話を持ってきた。


 ……まじか、この前聞いたいい王様の話もあって王国には良いイメージしかなかった……まぁ当然だよな、でかい国だしいくら優秀な王がいても黒い噂の1つや2つあるってものだ。




「誘拐事件のことか……最近は減ったらしいけどね……」


「詳しいねぇ、ナチル……でも情報によると王国が関わってるって噂を聞いたことがあるよ!」


 ソニアはこう言う話が好きなのだろうか、ノリノリだ。




「俺が聞いたサンリスタ王国の話だと、王様もいい人だし、雰囲気もとても良い素晴らしい国だって聞いたけど?」


「それは本当かい……?」




 俺の言うことにナチルが疑問を持つ。




「今の王国の王様は……基本よくない印象だね。前の王様は国民の意見を必ず聞きつつ、話し合い、そして対策がとてつもなく早かった。他の国とも頻繁に交流をして、素晴らしい王様と言われていたね……ただ今の王様は問題の対策はよっぽどのことがないとしない。それに裏で何かと通じてるって噂もあるくらいだ。前の国王がそれほど凄すぎたって言うのもあるけど今の国民からの印象は相当酷いだろうね」




(じゃあアリスが見た本っていうのは……)


(そう、おそらく前の国王が収めていた時のサンリスタ王国だろうね)


「でも、今の王様がそんななら前の王様が止めれば良いじゃないか? もしかして……前の王様はもう……?」


「いや、生きてる……と思うよ?」


 とソニアは言うが疑問系だ。


 なんで?




「へ? ソニアは他の国にいたのか?」


「いや、この国で育ってきたけど……あれ? 前の国王のこと何も知らない……覚えているのは前の国王が優秀だったことだけだよ」




「ナチルは……?」


「ごめん僕は別の国で育ったから全く」


「なるほど……」


(アリスは?)


(そんなの知ってるに決まってるよ! えーと、あれ? なんだっけ……?)


 なんでみんな前の国王の記憶だけないんだろう……


 まあ王国に行けばいくらでも本があるか




「わからないのはいずれわかるよ! それより!」


「行方不明……だったか、今は減ったって言ってたけど、消えた人たちは帰ってきたのか?」




「いいや、まだ行方不明だよ」


 ソニアはニヤリとしながら言う。


 絶対ソニア怖い話とか好きだろ……




「俺らも王国着いたら気をつけなきゃな……」


「俺らって……王国に行くのは陽太さんだけでしょ!」


「はは、そうだな、あははは」


 ……あぶねぇ、アリスに話そうとしてた! やっぱり心の声が漏れる、慣れなければ。






 しばらく話したあと日を消し、交代で番をしながら寝た。








・8月18日・ 




 リスタの森は広い。


 歩いても歩いても景色が変わらない。


 幸いなことに川や果物、動物などがいるので、何日かかろうと平気だ。




 他愛のない話をしながら歩いて行く。


 ソニアやナチルと話さないときは頭の中でアリス先生による魔法、もしくはこの世界の一般教養の授業だ。




 魔物に襲われないかって?


 ご安心を、


 現れる前にナチルの弓でほとんど倒される。


 なんと遠くからなのに一回も外していない。


 ナチルはほんとに強かったのね……




 ソニア曰く、結構ハイペースで進んでいるらしい。


 やっぱりな。


 ナチルさん、流石っす。




・8月19日・




 3日目だが…………


 暇だ。


 話す回数も減ってきた。


 どんだけ広いんだよこの森


 大抵の敵はナチルが倒してくれるし、やることがない




 ……あ、良いこと思いついた






         ***




「……というわけで、俺に戦い方を教えて欲しいんだ」


 アリスからは様々なことを教えてもらっているが、アリスの知識は家の本規準なので基本古い。


 なので俺はナチル達に先生を頼むことにした。




「なるほど……僕にできることならって言いたいところだけど、ごめんね。僕は弓しか教えることができないよ」




「弓と簡単な魔法の使い方、それだけでいいんだ。お願いできるかな?」




 この世界での魔法というのはみんな初級はできて当たり前だと聞いている。


 最低限は2人とも使えるだろう。




「そういうことならいいだろう。ただ、自信はないぞ?」


「私も手伝うよー!」


 ソニアも元気に返事をしてくれた。






         ***




 2人の教え方はとても実践的だった。


 例えばナチルの場合は弓を引く姿勢を教え、そのあと木の登り方を教えてもらった。


 木の登り方と言っても、"ブースト"を覚えているなら問題ないと言われた。


 "ブースト"があれば木に登ることは容易い、とのこと、




 とりあえず近くの木に登り、あたりを見渡す、するとナチルは素早く魔物を発見する。


「魔物を見つけたよ、よく見ててね」


「あれは……」


 前にソルダート平原であった、オオカミ型の魔物、レクエノだ。




「初級土魔法"ヴァイス"」


 するとナチルの目の前に土が現れ、それが固まっていく。


 その土は矢の形をした。


「土魔法を見るのは初めてかな? これは、土初級魔法"ヴァイス"と言って、土や石を出せるんだよ」




 あれが土魔法か、アリスから聞いていたが見るのは初めてだ。


(私は適性がなかったから土魔法は使えなかったんだよ)


 と、アリスは言う。




「もちろん、普通は矢を作ることはできない……でも僕はこう見えても中級魔法士だからね、これくらいの魔力操作はできるよ」


(前に言ったと思うけど、中級魔法士になると少し魔力のコントロールができるようになってくるよ、だから初級と中級では差が大きいんだよ)


(補足ありがとう)




 ナチルはそのまま動作に入る。


「背筋を伸ばし、弓を顔の近くに持ってくる。そして……」


 シュッと矢が飛んでいく




 矢はそのまま飛んでいき、レクエノの頭を貫通した。


「おぉ、すごい……」


 思わず、声が出てしまった。




「まぁ陽太、気楽にやってみてよ」


 ……んな簡単に言うなっての……




         ***




 ソニアは短剣の使い方と魔法の使い方を主に教えてもらう。


 魔法の時はアリスに交代せず、自分の力だけで教わった。




 ソニアとはたまに雑談しながら教えてもらっている。


「実は私こう見えても、魔法使い名乗ってるんだよ!」


「ん? ……魔法士と魔法使いは違うのか?」


「あぁ、魔法士っていうのは称号? 肩書き?そんなものだよ。それでその人の魔法のレベルがわかるの。魔法使いってのは、役職みたいなもので特に魔法を重点的に使って、魔物と戦う人たちのことだよ。ナチルも弓を主に使うから弓使いだね、そのまんま」


「ナチルは探検家ではないのか?」


「なーに言ってんの? 探検家は職業でしょ? 弓使いは役職よ」


 なるほど、つまり職業というのは仕事、役職は戦闘時のポジションという認識でいいんだろうか。




(多分お兄さんの考えてることであってると思うよ。ごめんね最低限しか教えてないから……)


(良いんだよ、ありがとうアリス)




「はぁ、陽太って常識ないのね」


「俺の故郷が田舎だったものでな」




 ソニアが言うには、魔法使いというのは魔力が基本普通の人より高くて、いろんな魔法の適正がある人が魔法使いになるらしい。


(魔法使いって呼び名かっこいいよな、アリス、俺の魔力は高いか?)


(残念ながら普通の人以下かな)


(ですよね)




「それにしても陽太は不思議だね、使える魔法は2個しかなくて、それも基本魔力が少ないから打てる数は少ない……武器も何も使えない」


「自分でいうのもあれだけど、すごく戦闘に向かないよね」


「今のところ君のいいところは優しいと少しイケメンしかないんだけど?」


「はは……厳しいな」


 これから強くなればいいさ




「強くなるためにもソニアに色々教えてもらわなくちゃな」


「任せなさい!」


 ソニアには短剣の予備をもらった。


 ちなみにナチルには土で作った弓と予備用の土の矢を10本ほどもらっている。




 俺が頼んだとはいえ、2人は熱心に教えてくれる。






こんなことをしてると昔のことを思い出すな……


 学校の勉強は今はできる方だが、中学校の頃はよく友達に教えてもらっていた。


 小学校からの友達で、今となっては親友だ。




 いま、どうしているだろうか……

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