11話 森の主

・8月23日・  昼   ……リスタの森……




 この森に入って早いもので1週間経つ




 森を歩いている時はずっとナチルとソニアに戦い方等を教わっていた。


 アリスにも寝る時に白い空間に呼び出され、この世界の常識を叩き込まれてる。


 もちろんずっとではない。


 30分ほど勉強し、その後はアリスと一緒に寝ている。




 なので、1日中脳が動きっぱなしと言うわけでもない。


 ていうかこの空間でアリスと寝るってどういう意味だろう。


 夢の中で寝てるって扱いでいいのだろうか……?




 まぁそんなことはどうでもいい




 いろいろ考えるとナチルが話し始めた。




「残念だけど、僕らが教えられるのは今日までみたいだね。この様子だと遺跡と王国の分かれ道には今日中に着きそうだ」




 思ったより……早いな




 俺はこの1週間で少しだけど、成長していた。


 使える魔法の量自体は変わらなかったが、新しい魔法を一つ覚えた。




 短剣の方はまだ扱いは微妙だが、弓の方は順調で最近なんとか魔物に当てられるようになってきた。




「陽太くん、武器の扱いは上手くなってるけど、決して油断はしないでね」


「あぁ、わかっているよナチル」




 気がつけば、ナチルの俺に対しての愛称が陽太くんになってる。




 おそらくナチルの中では君付けは親しい証みたいなものだろうか、そう考えると少し嬉しいな






「この先から強い魔物の気配がするよ、おそらく、大昔からこの森にいるラピッドタートルだね」


「ラピッドタートル……?」


「その巨体からは考えられないほどに高速に動いて相手に突進してくるよ、王国の人からはこの森の主だなんて呼ばれているほど強いよ」




 高速に動く巨体とか怖すぎだろ。


 トラックみたいな感じだろうか……?




「会わないことを祈りたいけど、この森を抜けるなら確実にいる。幾多の冒険者たちが苦しめられてきた魔物だよ」


「弱点とかはあるのか?」


「そうだね、ラピッドタートルは攻撃、甲羅の守り、スピード、どれをとっても強いが、その分頭や足など、甲羅のない部分が脆い。基本体力がない魔物だから魔法で弱点を狙いまくって倒すのが1番だよ」




 そんな話をしながら少し歩いていると、目の前に大きな亀が寝ていた。


 タートルだから亀を想像していたが……これがラピッドタートルだろうか?


 3mほど高く想像以上にでかい。




『幸運なことに寝ている……今のうちに通るよ』


 小さい声でナチルに対し、俺とソニアは頷いた。




 でも俺にはわかる


 こういう時に素直に通れるほど現実は甘くないってことを……




 ゴゴゴゴゴゴゴ……




 目の前にある巨体が動き出す。


 やっぱりね……気づかれると思ったよ。




「陽太くん!」


 ナチルが声を上げる




「ラピッドタートルは群れを嫌う! つまりやつは基本1匹で動く! だから増援はないから安心しろ!」




「じゃあこれを最後の特訓にしようか!」


 ソニアは短剣を構えつつ言う




「わかった! よし、行くぞ!」


(アリス!)


(わかったよ、お兄さん)




 瞬間俺の体の主導権がアリスへと移る。




「初級太陽魔法"ブースト"」


 アリスはソニア、ナチル、自分自身に強化魔法をかける。




「あれ? 陽太、魔法3発も使えたっけ?」




(そういえば一回もこの状態を2人に見せてなかったな、アリス言い訳は……)


(大丈夫、私に任せて!)




「あ……ある条件にならないと使えないの!」




 本当に大丈夫なのだろうか……アリスがボロを出さなければいいが




「くるぞ!」


 ナチルがそう言うと、ラピッドタートルは力を込め、一気に突進してきた。


(アリス! 大丈夫か?)


(大丈夫よお兄さん、私だってこの体に慣れてきたもの!)




 俺の心配とは裏腹にアリスはヒョイと攻撃を避ける。


 当然他2人も攻撃を避ける。


 ラピッドタートルはそのまま木に思い切り衝突する。


「今だ!」


 ナチルがそう言うと、皆が攻撃の姿勢に入る。


 ナチル、ソニア、アリスは魔法を準備している。


 ラピッドタートルが方向転換をし、こっちを向いた瞬間、


「打て!」


「初級太陽魔法"リャーマ"!」




「中級土魔法"ディア・ヴァイス"!」




「中級緑魔法"ディア・プランタ"!」


 アリスの手からは、無数の火の玉がラピッドタートルの頭に向け容赦なく発射される。


 連射と言うこともあり、とてつもない威力だ。


(アリス、連射なんてできたのか……?)


(苦労したよ、このからだになってからできなくなったけど、練習したらできるようになったの)




 そんなことを話していると前から衝撃音が聞こえてくる。


 前を見ると炎の連射を浴びたラピッドタートルが息つく暇もないままラピッドタートルの頭上から大量のでかい岩が降り注ぐ。


 よく見るとラピッドタートルは植物に絡まれて身動きが取れない状態になっている。




(……あれは……ソニアとナチルの魔法だろうか?)




(ナチルさんが使っているのは"ディア・ヴァイス"、土魔法ヴァイス系の魔法だね。この前矢を作ってくれた時に見たと思うけど、あの"ヴァイス"よりも高度な魔法。一方でソニアさんが使っているのは"ディア・プランタ"、緑魔法プランタ系で植物を操ることのできる魔法ね。攻撃系の中級魔法は基本"ディア"がつくの。覚えておいてね、お兄さん)




 アリスが捕捉をしてくれたが、あれが中級魔法か……




 アリスの初級魔法の連写も凄かったが、中級は規模が違う。


 植物はあの巨体を押さえつけるほどの力があり、岩はなだれのように降り注ぐが全てがでかい。




 俺たちの魔法攻撃が終わると、あたりは静かになり、ラピッドタートルが居た位置は砂埃が舞っている。


 倒せたのだろうか……?




 キュイイイイイイイィィィィィィィン




「ナチル! 陽太! ここからだよ! 気を抜かないで!」




 瞬間、ラピッドタートルは咆哮をあげ、殻に閉じこもり超高速で回り始めた。




 するとラピッドタートルの殻が一気に弾ける、そこに回転していた力も加わり、とてつもないスピードになっている。




 そしてその欠片の一部は当然俺たちの方向にも飛んでくる




(アリス! 大丈夫か!?)




 と、言うタイミングで俺の体の異変に気がつく




「へ?」




 体の感覚がはっきりわかる。




 実はアリスが体を操っている時は体の感覚は曖昧になるのだ。




 はっきりとしていると言うことは、つまり……そう言うことだろう。




 敵の攻撃が迫る中……体の所有権は俺に戻っていたのだった。

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