6話 8月16日
・8月16日・ 朝 ……アリスの家……
出発の日がやってきた。
俺は結局魔弾を手から出すことはできなかった。
さすがに武器がないと困るのでアリスからは杖を1本貸してもらっている。
朝食を食べてから荷物を整理して出発の予定だ。
俺はリビングに行くが……アリスは見当たらない。
アリスは僕が起きてリビングに行く時には必ずいた。
寝坊なんて珍しいな。
逆に今まで寝坊がなかったのがすごい。
アリスの部屋に入るが……いない。
俺は……少し焦った。
ただ外に出かけてるだけかもしれない。
水を汲みに行ってるかもしれない。
それでも……過去の
……それは雅が帰ってこなかったあの日
……それは俺が転移した日
その状況を思い出していた。
俺はいても立ってもいられなくなり、家を飛び出した。
走ること数分、俺はとんでもない光景を見る。
「……!? 村が……」
村が……なかった。
いや、正確に言えば建物の形だったものが少しだけある。
まるで滅んでから何年も経ったように苔が生えていて、とても静かだ
……何が起こった、建物は? 動物は? そして何より村人たちは?
考える間もなく当然、爆発音が聞こえた。
「こっちか!?」
村の入り口へと走る。
そこには真っ黒な服に真っ白な肌の女の子がいた。
髪は透き通るような銀髪だ。
「あら? この村に人がいるなんて、不思議なこともあるのですね」
「……お前は誰だ?」
あたりを見渡すと、倒れているアリスがいる。
「アリス!? だいじょ……!?」
アリスに近づこうとすると、目の前に信じられない光景が見える。
……アリスはもうボロボロで立つのも精一杯な状態になっていた。
「え?」
至る所から血が吹き出している。
流石に見間違いではない。
「アリス!?」
「まだその子は生きてますわ。まぁ、死ぬのも時間の問題でしょうけど」
「……お前がやったのか?」
「見ればわかるでしょう」
杖に手をかける。
だがそれをアリスが止める。
「アリス!? なにをするんだ!」
「お兄さんではなにもできない……よ。あの人の狙いは私だから、お兄さんだけでも……逃げて……!」
アリスは声を振り絞る。
だが俺はアリスの手を優しく振り解く。
アリスの言葉が耳に入ってこなかった。
アリスはこの世界に来てからの初めての大切な友達だ。
……大切な人が危険な目に遭っているのに動けないのはもう嫌だ!
俺は杖を構え、標準を黒い女に向ける。
杖からは魔弾が現れ、連続で10発打ち込んだ。
砂埃が舞ううちに俺はアリスを背負い、逃げようとする。
俺は走るのは得意だ。自分で自信満々に言えるくらい得意だ。
だから逃げれると思っていた。
だが、背負った時に後ろに人がいるのを感じた。
振り向くと黒い服の女が急接近していた。
音も立てずに……
俺は驚きつつ距離を取ろうと思ったが、
すぐに回り込まれてしまう。
とりあえずアリスをおろし、杖を構え……
パキッ
「いつのまに!?」
気がつかないうちに杖は奪われ、折られてしまった。
「大人しくその子を渡して欲しいのですが」
「そんなことするわけないだろ! そもそもお前は誰なんだ!」
「申し遅れました。わたくしは2級魔族 リリと申しますわ。 以後お見知り置きを……」
スカートの裾を持ちお辞儀をする。
その佇まいは魔族という言葉が無ければ見惚れてしまうほどだ。
「魔族……!?」
魔族……そんなことはどうでもいい。
なぜアリスを狙うのか、俺を追ってきている様子でもない。
「お前の目的はなんだ?」
俺は怒りを抑えつつ聞く。
「極秘……ですわ。ただ、その女には死んでもらわねばならないのです。悪く思わないでくださいね」
リリが近づいてくる。
「くっそおおおおお!!!」
俺は手を前に出し杖なしで魔弾を出そうとする。
だがやはり出ない
「なんで出ないんだよ!」
俺は近くの石を投げる、だがリリの近くで光の膜のようなものが現れ、石は当たらない。
すると後ろから声が聞こえる。
「もう……いいよ、お兄さん……アリスがどうにかするから早く逃げて……残ってくれたのは……嬉しいけど……今のお兄さんじゃ何したって……無駄だから」
「アリス……!」
俺はこれでいいのか、このまま逃げるとアリスは確実に死ぬ。
俺は黙って見てるしかないのか……!?
俺はまた何もできないのか……!
……だめだ! 絶対に死なせない……
俺はまた手を前に出し、そして祈った。
(……お願いだ! 出てくれ!!)
すると俺の手の前に光の玉が現れ、それは素早くリリ向けられて放たれた。
「でた……!」
俺はさらに3発打つ。
リリは出せたことに驚き、最初の1発があたりそのまま後ろへ少しだけ飛ばされる。
だがあと3発は避けられる。
「くそ! 結局意味ないのか!!」
「少し……びっくりしましたわ。……少しだけ油断しすぎましたね。」
そう言うと女は深呼吸をして……
「いい加減捕まってくださ……!?」
「アリス!?」
……アリスがボロボロの状態で立っていた。
「よし……やっと魔力が回復してきた……!」
するとアリスの手が黒く染まる。
俺でもわかるほどの魔力があの手に集まっていく。
「アリス……なにを……!?」
するとアリスは俺の方に手を出し、声を振り絞り叫んだ。
「中級幻覚魔法"ディア・イリュージョン"、中級死霊魔法"トランスフィリア"!!」
瞬間俺の視界は真っ白になった……
***
……目を覚ますと森の中にいた。
「……うぅ、頭が痛い。……ここは村の奥の森?」
どのくらい気を失っていただろうか、それにさっきは村の入り口にいたのになんで……?
もう日は真上を通っている。
「……そうだ、アリス!」
叫ぶがなんの返事もない。
俺は村の入り口へと、駆け出した。
アリスの名前を叫びながら村の入り口へと急ぐ。
村の入り口へと行くと赤い髪の少女が倒れている。
「アリス……?」
その少女はアリスだった… …
だがその腹部には1本の太い槍が刺さっていた。
「え……」
俺はアリスに近づき、膝から崩れ落ちる。
アリスの頬に触れる。
冷たい。
「アリ……ス……」
この世界で一番最初にあったのがアリスで、俺にとっては唯一の頼れる存在だった。
たった2週間の付き合いだが、俺らの距離はまるで本物の兄弟のように近かった。
頭の中が真っ白になる。
「……」
守れなかった………………
頭の中に現れるのはアリスとの数少ない記憶。
***
何時間たっただろう……
その場でアリスの頬にずっと触れていた俺はその足で森の奥にアリスを埋葬することにした。
……もう、なにも考えられない。
そのまま疲労が溜まっていた俺はその場で倒れ意識を失った。
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