7話 アリス
・?月?日・ ? ……???……
起きると白い空間にいた
そんな何もないとても白い部屋に1人の赤髪の少女が倒れている……
アリスだ
「……アリス!?」
俺は急いで駆け寄った。
「おい! アリス!」
アリスの体を触ってみると……暖かい。
生きてる……?
「むにゃむにゃ……お兄さぁん……でゅふふ……ふぇ……?」
だらしない顔で寝ていたアリスはこちらを見て目を開けた。
「あれ……? なんでお兄さん? ここはどこ……?」
「アリス!」
俺は思わず抱きついた
「お、俺は……お前が死んだと思って……!」
俺の目からは自然と涙がこぼれ落ちる。
こんな大げさに泣くのなんていつぶりだろうか
アリスは戸惑った顔をしていたが、すぐに察し、
「よしよし、わたしはここにいますよ」
そう言うとアリスは俺の頭を撫で、それは泣き止むまで続いた……
***
結構な時間泣いていた
「お兄さんも、あんなに泣くんだね……ふふっ」
アリスがからかってくる。
「当たり前だ」
「よしよし……ふふっ」
嬉しそうに撫でてくる。
そりゃ誰だってあんな光景を見ればこうなる……と思う。
「本題だが、確かに俺はアリスが死んだのをこの目で見た、なのになぜ俺の目の前にいる?」
「わたしが死んだのは本当のことだよ」
……やっぱりあれは夢ではないんだな……
「けど、それは体の方だけなの」
「……どう言うことだ……?」
アリスは一旦俺をホールド状態から解放させて言った。
「あの魔族に追い詰められた時、お兄さんがわたしを置いて逃げる気がなかったからわたしはある魔法を使ったの」
「……魔法?」
「中級幻覚魔法ディア・イリュージョン、中級死霊魔法トランスフィリア。ディア・イリュージョンはただの幻覚を見せる魔法。トランスフェリアは一時的に生者の体に乗り移り、操れる魔法」
「え、そんなおっかない魔法があるの?」
「大丈夫だよ、自分より強い相手でなければ数秒は乗っ取れる。それにこの魔法は他に使える人がいない魔法……らしいから私が使い所を見れば平気なの」
何が大丈夫なんだろう……?
乗っ取りとか怖えよ
「とりあえずそれでお兄さんだけでも逃がそうとしたの、魔法は成功してお兄さんの体を操って森の中に逃げ込むことはできた、幸いにもあの魔族はわたしが目的だったからお兄さんのことを追って来なくてよかったよ」
そのままアリスは続ける。
「で、問題なのがここからで、トランスフィリアはわたしの魂と肉体を切り離して一時的に相手の肉体に入り込めて、限界が来たら自分の体に魂が戻ってくる魔法。けれどお兄さんに乗り移ったあの時のわたしの肉体はもう死んでいた、だからわたしは帰る肉体がなく何故かお兄さんの肉体にいるってことなの」
「……死霊魔法ってそんなことできるの?」
「……いいやわからない、ちゃんと実践で使ったのは初めてだから……でもまさかこんなことになるなんて思わなかったな……」
つまり今の俺の肉体には俺とアリス、2つの魂があるわけか。
「体はもうないけど、魂は生きてる。これって生きてるってことじゃない?」
……そうなのだろうか……?
ものすごいポジティブな考え方な気がする。
「けれど1つの肉体に2つの魂ってこれ……大丈夫なのかな?」
「んー、多分大丈夫なんじゃないかな、今のところ何もないし、それにわたしもお兄さんの体から出れるか試してみたけど、結局出れなかったの」
出ようとはしたんだ……
「だ、だから……お兄さんには申し訳ないけどこれからお兄さんの体に居候させてもらうことになるけど……いいかな?」
「……お、おう」
正直頭が追いつかない。
いきなりアリスが死んだと思ったら俺の体に入って、でもアリスは生きている、でも死んでいて………………もう意味がわからない。
「……こ、このことも王国で情報集めだな」
「そうだね!」
嬉しそうに返事をしよる。
「それよりお兄さんに話しておかなきゃいけない話があるの……」
急に暗い顔になる。
「おう、なんだ?」
「まず1個目なんだけど……わたし実は記憶喪失だったらしいの……」
こう新しい情報がポンポン出てくると俺の頭はいつかオーバーヒートするぞ。
「へ?……どういうことだ?」
「まぁ正確に言うと記憶喪失ってよりも自分自身で思い出さないようにしてたのかな」
アリスは、えっとね……と言いながら少し言いづらそうに話した。
「実はもともとソルダート村はとっくに滅びていたの……その原因は6年前、わたしが7歳の時突然村に魔族が襲ってきたこと。わたしのお父さんとお母さんが上級魔法士だったからなんとか退けることができたんだけど、わたしを守りながら戦ったせいでわたしのお父さんとお母さんはボロボロになったの。そして……わたしを守るために身を投げ出した村の人達も全員死んじゃって……。魔族を退けられたのはお父さんが打った上級結界魔法で魔族がこの村に入れなくなったの。そのあとお父さんとお母さんは最後の力で幻覚魔法を打ってここら村一帯に村の存在が分かりにくくなる魔法をかけたわ。そのおかげで今までわたしは6年間生きてこられたの。でもわたしはお父さんとお母さんが死んじゃった時、ショックで倒れ、次に目が覚めた時は無意識に自分で幻覚魔法と死霊魔法を使ってあの出来事は夢だった、という嘘の現実を作り出してたみたいなの。わたしがそのことに気づいたのは、あのリリっていう魔族が村にかかっていた魔法を解かせたのが原因……だったよ。あのときのわたしは村の人が殺されたと思ってリリと戦ったけど、結局負けちゃった。……まぁ6年間も無意識に魔法を使っていれば流石にボロが出てくるわよね……」
しばらく沈黙が続いて、アリスは言った。
「……わたしは無意識とはいえ、自分が現実を見たくないから6年間も村があるように見せかけて自分を現実から守ってきた。……わたしって最低よね……」
最初は明るく話そうとしていたアリスだったが、話していくうちに声が弱くなり、下を向いてしまった。
その時のアリスはまだ7歳……どんだけハードなんだよ……
6年間も1人でこの状態のまま過ごしてたってことかよ……
呑気に過ごしていた自分がバカらしくなってくる。
アリスの時間は7歳から止まっている。
この現実は……辛すぎるだろ……。
さっきまでやけに元気だったのはこのことを忘れたかったからだろうか、でも俺に伝えなきゃいけないと思い、頑張って伝えたのだろうか。
「……アリスの親はお前を生かすために命を削って頑張ったんだよな?」
「うん、そうだよ。だからそのことを忘れていたわたしは……」
「お前の反省はとりあえず置いておこう」
「アリスの親はアリスに生きてほしいって言う願いが一番だったはずだ。親だけでなく村の人もだ。結果はどうであれ、アリスはここにいる。魂だけだがなんとか生きてる」
「でも……でも!」
「生きている限り失敗はつきものだ、だからとりあえずは生きているのを喜ぼう。その後に、たくさん反省しよう。その時は俺も胸を貸してやる。いくらでも泣いてもいい。だからとりあえずは今生きていることをものすごく喜べ」
「お兄さん……」
「……まぁなんだ、とりあえず……お前が生きててくれて俺もとても嬉しい。ありがとう」
「……ふふふ」
「……何笑ってんだよ」
「お兄さん、なんかこういうこと言い慣れてない感じがすごいよ? ふふふ……なんか面白い」
アリスは泣きながら笑っていた。
「はは……結構恥ずいな……」
***
「もう平気か?」
「ぐすっ……うん……」
「これからのことだけど……とりあえずサンリスタ王国に行くのは変わらないね……それでいい?」
「うん」
「……それでさ、これどうやって元に戻るの? 今はいわゆる夢の世界ってやつだろ?」
「あー、多分起きたいって思えば起きると思うよ」
そんな簡単なんだ……
「でも……まだ起きないで……」
「なんで?」
「……まだこうしてたい……」
「……りょーかい」
とりあえず俺は背中をさすってあげた。
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