3話 異世界転移

・?月?日・ 昼?  ……???……


 気がつけば草原に立っていた。

 やかましかった蝉の鳴き声も今はもう聞こえない。

 近くに流れる川の流れる音が優しく耳に入ってくる。

 それだけだ。


「ここは……」

 ただの草原だが少し何かが違う印象を感じる。

 その違和感はすぐわかった。


「なんじゃありゃ!?」

 目に入ってきたのは空を自由に羽ばたく鳥……なのだが。


「でかっ!?」

 明らかに今まで見たことのある鳥とは違った。

 デカい。デカすぎるのだ。

 自動車は軽く越えそうなサイズの大鳥。

 それを見ただけで信じたくもない事実が、徐々に俺に真実だと伝えてくる。

 そうここは……。


「いせ……かい……」

 親父の言っていたことが真実味を帯びてくる。

 やはり、雅は……。


「ははっ……んだよそれ……」

 馬鹿馬鹿しくなってくる。

 俺はどちらかと言うと非現実的なことは信じていなかった。

 目の奥が熱くなる。

 普通なら俺でも嬉しい状況だが、今回はそう言う気にもならない。

 絶望、それだけだ。


「エスパラルダ、サンリスタ王国、魔法……」

 頭が冷静になると、親父が言っていたことが一つずつ思い出される。


「……」

 割り切れるものではない。

 ただこれが現実だとわかった以上、嫌でもなんでも動かなければ始まらない。


バシン!!

 頬を思い切り両手で叩いた。


「よしっ」

 俺は無理やり、やる気を出す。

 あたりを見渡すと、村があった。

 王国は見当たらない。


 とりあえず村を目指すことにした。


        ***


 近づくと徐々に村の輪郭がはっきりしてきた。

 村は真ん中に川が流れて、奥には森がある。

 自然に囲まれた村、そんな印象だった。


「あの、すいません」

 俺は村の入り口付近にいた少女に声をかけた。


「……!?」

 すると少女は驚いた様子でビクッと肩を震わせた。


「えっとそこの君だけど……」

「は、はい! なんでしょう!!」

 少女はガチガチに緊張した様子だ。

 赤くサラサラとした長い髪にびっくりするほど整った顔。

 背が低いのと対照的に健康的なものを持っている。


「えっと、俺は遠くから旅をしてきたんだけど、ここの村の名前教えてくれるかな?」

 その言葉を聞いた少女はパッと目をキラキラ輝かせた。


「え、お兄さん旅人!? わ!! 私見るの初めて!!」

 さっきまでの緊張はどこえやら、吹き飛んだらしい。


「どうせなら家来てよ!! 村の周辺のこと教えるから! 旅の話も聞きたいし!」

 今は少しでも情報が必要だ。

 お邪魔させていただこう。


「ありがとう。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」

「!! やった!」


         ***


「はい、お茶!」

「ありがとう」

 少女の家は村から10分程のところにあった。

 この家の裏には森があり、その奥には見晴らしのいい丘があった。


「私の名前はアリス! お兄さんは?」

「俺の名前は陽太だ。よろしく」

 この世界の苗字の概念がわからない以上とりあえず名前だけ言っておこう。


「陽太……不思議な名前だけど、なんかかっこいいね!」

 こう接していると見た目相応の少女でなんだか眩しいな。


「で……お兄さんは村のこと聞きたがってたね。この村はソルダート村っていうの! サンリスタの領地でもあるよ。この辺の特徴としては過ごしやすいことかな。暑くもならないし寒くもならないし」

 サンリスタ……親父の言っていた王国の名前だ。


「ということは近くにサンリスタ国があるのかな?」

「うん! 1週間ちょっとかかるけどねー」

 1週間……遠いな。

 あれ……? 今……。


「今、1週間って言ったか?」

「うん……そうだけど?」

 1週間の考え方があるのか、だとしたら。


「今日の日付を教えてくれないか?」

 すると、本の様なものを取り出した。

 何かの魔法だろうか。

「えーっと、確か今日はガードン暦510年8月2日かな」


 どういうことか俺の世界とほとんど時間が変わらない。

 それにガードン暦……。

 謎が増える。

 そもそもアリスが日本語なのも気になるし……いや、それは後回しでいいな。


「ありがとう、アリス」

「もしかしてお兄さんサンリスタ王国に行くつもりなの?」

「あぁ、そうだ」

 アリスは少しうーん、と考えそして閃く。


「お兄さん、しばらくの間家に泊まってく?」

「……い、いや、そこまでしてもらうのは悪い」

 予想外であったことを提案され、さすがに驚いた。

 そもそも早く行かなければならない。

 今頃、親父は、母さんは……雅は……。


「サンリスタ王国に着くのはここから10日ほど……やっぱり準備がないと危険だよ。まず平原を超えるのにも魔物がいるし、抜けたとしても長い長い森を越えなきゃならないんだよ……しかもその森にはとーーっても強い主がいるって聞くし……だからしばらくはここで準備してなきゃダメだよ!」

「で、でもほら女の子の家に泊まるって言うのもね? ほら、泊まるとしても他の村人に頼むのもありかなって……」

 当然ながら自分は女の子の家なんて泊まったことがない。


「他の村人は……ダメだよ。それに私なら大丈夫! おばあちゃんもいるし!」

「そういえ問題かね」

「いいの! とりあえず1週間泊まって!」

「えっ!? 長っ!?」

「全然長くない! お兄さん魔法はどの程度使えるの?」

 魔法……やっぱりこの世界では普通らしい。


「あー、えっと……」

 アリスの目線が厳しいものになる。


「何も使えません……」

「……えっ!? 嘘! みんな必ず小さい頃に習うって聞いたけど……あ、ごめん。もしかしてお兄さん、ちょっと特殊な家庭環境?」

 初めて見る悲しい顔。

 これは少し罪悪感だが、嘘をつくしかない。


「あ、うん……まぁそんなところ……」

「そうなんだ……。だとしたら2週間だね」

「え……」


「私が魔法の基本を教えてあげる!」

 願ってもみないチャンスだった。

 親父から言われたことの一つ、魔法を使えるようになること。

 アリスがどこまで出来るかは知らないが、頼ろう。


「……わかった。世話になるよ」

「やったぁ!」

 今後の予定が決まりつつあった。

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