第15話 だから嫌だ


魔王を倒せだと……

予想は……出来ていた……


俺は異世界に転生してから日々を思い出す。

そして久しぶりに思い出す。

俺は32のおっさんであるということを。

転生してからの日々、楽ではなかった。

楽しさなどなかった。

32と言えば、結婚して家庭を持ち、安定、安心、安全を求める年である。

休日出勤当たり前、家に帰れば嫁と子供、プライベートなどない日々を送る年代だろう。

だがしかし、俺は違う。

結婚はしていなかったし、たまにある休日にはネットで友人たちとゲームをする。有給は年内に全部消化する。そんな32歳だった。


享年32歳の前世の俺の意思ははっきりと告げている。

『断れ』と!!

32歳の俺の魂に探求心も好奇心もないと!!

もう外に出たくないと!!

部屋の中でゴロゴロしたいと!!

ゲームやアニメは実体験では楽しめない。言うなれば、夏の暑い日にクーラーガンガンの部屋だから楽しいのだ。冬の寒い日にコタツの中にいるから楽しいのだ。


努力は30歳まで。それ以降はいかに手を抜くかが仕事ができる奴の特徴なんだ

努力を忘れた中年に試練を与えるな!!


そもそも転生者と言えば聞こえがいいかもしれない。

たが、よく考えてみろ!!

チュートリアルなしでの転生だ。これは転生であって転生でない!!

言うなれば、『魂の拉致監禁』だ。

よって協力する必要はない。



「嫌だ!!」

俺はあぐらをかき、小さな身体でふんぞり返り答える。

「貴様、ガキのくせにミツハ様の話を断るとは何事だ!!」

そんな俺は0.1秒以下で頭を鷲掴まれ中へ浮く。

「離せ!!こっちだって、話無くこんな世界に送られて被害者だ。せめてチュートリアルさせろ。この身体で魔王討伐なんて、普通に死ぬぞ、バカ女!!」

「貴様それでも転生者か!!」

暑苦しいバカ女だ。俺はそこのミツハ様のお墨付きで無能力なんだよ(怒)

「なら、チュートリアルをしてあげれば、僕の頼みを聞いてくれるのかい?」

僕っ子女神の問いには少し揺らいだ。

異世界転生と言えばチュートリアルだ。

「チートスキルをくれれば考えてやるよ。」

これはあくまでも交渉だ。

どうする、神?

俺がチートスキルならお前の目的の魔王討伐だって余裕だし、俺のニート生活だって半分くらい叶うはずだ。


「それは無理!!」

俺の交渉は一蹴されたのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る