第8話 無能でした。

噛みつくということは俺は主人ではないということだ。

つまりは俺にテイマー系能力はないということだ。

残念、無能でした。

だが、そんなことよりも大変なことがある。

目の前の犬畜生だ。

赤ん坊の肩に噛みつくなどじゃれつきのレベルではない。

また意識が飛んだらどれだけいいことか...

大犬が噛みついた犬に吠える。

何が起こっているのかはわからない。

ただ大犬は俺を咥え走り出す。

何でだか、前にも同じことがあったように思う。

病院はない。怪我をこの身体でするということは、死を意識しなければならない。

何度目かの死の直面に俺はもううんざりだ。

いや、すぐには死なないだろうけど感染症とか、狂犬病とかで死ぬだろ、たぶん。

もうダメだ。早く殺してくれ。この世界ハードモード過ぎるんだよ。


身体が中に浮く。

大犬のバカは俺を放り投げたのだ。


赤ん坊を投げるな。(怒)

こっちは怪我してるんだぞ、殺す気か!?


そして俺は泉の中に入水した。

身体が水へ沈みながらも、カナヅチじゃないからパニックになることはない。

むしろそんなに力が要らないから陸より楽だ。

身体はすぐに浮いてきて、見事に背泳ぎ状態になる。

肩の傷若干の痒みを感じながらも不思議と気持ちよさがある。

何ヵ月ぶりの、いやこの身体にとっては産湯以来の水浴びだからだろうか。


犬に噛まれた傷口が痒いが、どうということはない。

その時俺の肩からの出血が止まっていることに気づいた。

肩からだけではない。手にあった雛たちから受けた傷もいつの間にかなくなっていた。

泉の力なのか、俺の身体は治癒していく。


これは回復の泉

回復の泉の発見がやっと異世界に来たことを実感させた。

疲れと安堵のせいで、俺はウトウトとしてくる。

気持ちいい、ちょー気持ちいい。これはキタコウだわ。

夏休みのプールを思い出すわ。

あまりの気持ちよさに膀胱括約筋が緩んでしまって失禁したが、不快感はない。それすら快感に感じる。

あぁ、これが排泄の喜び!!


そんなことを思いながら俺は深い眠りに着いた。

ここは泉の中。風呂で寝るなんかより危険な行為である。


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