第6話 やるなと言ったはずだ


生暖かいものが雛たち弧を描いて俺の頭上を越えて行く。


やりやがった。

しかもついさっきやったはずなのにだ。

こいつ俺の背に隠れてトイレ穴掘ってやがったのか。


お前、どんだけおしっこするんだよ。

そして俺に散らすなと言ったはずだ(怒)


いや、言葉にはしてないよ。

目と態度と常識でわかるだろ。

敵に向かってかけたのは良い。

雛たちの猛攻もそれで止まった。

だけどな、俺にはかけるな!!!!(怒)

テメーを守って戦ってやってるんだよ!!

親鳥怒らせないように雛を攻撃をせずに防御だけやってんだよ。

ヘイトコントロールってわかんねーだろ。クソ犬が!!!

「だっ!!!」

さらに穴を掘ろうとしていたから俺はダップの頭を叩く。

これ以上掘り進められると巣から落ちる可能性すらある。

赤ん坊の手だ、これを虐待と言う奴は流石にいないだろう。

今のは誰が見てもやるなって言ったからな!!!

俺の後ろで大人しくしてろ、揺らすことすら許さんぞ。って意味だからな。


親鳥は怒っている。羽を開き身体を大きく見せようとしているのだ。完全な威嚇である。俺は正直ビビった。ダップはさらに穴を掘ろうとする。

やるなと言ったはずだが聞いていない。


どうする。いっそのこと巣から飛び降りるか?

ダップと一緒に飛び降りればクッションの代わりになるのではないか?

ダップは死ぬかもしれないが、俺だけなら生き残れるのではないか?

嫌、だめだ。仮に落ちて無事でもまた捕らえられるか、別の生き物の餌だ。

こういう時漫画やゲームなら主人公が突然覚醒するのが流れだが、俺の身体に変化はない。

転生者特典でもあればいいのだが、それも期待できない。


親鳥が甲高く鳴くと雛鳥たちはまた一斉に攻撃をしてくる。正直守っていても意味はない。何かないか、俺は焦っていた。


キャン、キャン、とダップが吠えてくる。

いつもとは違う。

まさか、ダップお前が覚醒する流れか!!

お前だって生きたいもんな!!


いきなり吠えられ、親鳥も雛も怯んだ。

その一瞬に俺の腕をダップが引っ張り、バキバキと音と共に俺たちは巣から消えた。

ダップが腕を引っ張り、巣の脆くなったところに俺とダップの全体重がかかったのだ。

落ち行く意識の中、俺は死を覚悟した。

なぜならクッションがないからだ。

ダップのやつが俺の上いる。


この犬まさか、俺をクッションにするつもりか!?

32のおっさんがまさか、子犬に出し抜かれるのか!?

屈辱……

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