ロシーボ隊と強化戦士
ロシーボ隊の中核従者・ミナピーとウィーナ隊の中核従者・エルフリーデが訓練場で練習試合をしていた。
ミナピーはコートに身を包み、大きな眼鏡をかけた長髪の小柄な、どこか頼りなさげな印象を持つヒューマンタイプの女性。
一方、エルフリーデは上半身は鎧を装着した凛々しき美女で、下半身が栗色の毛並を持った馬であるケンタウロス系の女騎士。
ミナピーは刀を、エリフリーデはスピアを、刃が立たぬよう魔力でコーティングされた練習用の武器をそれぞれ持つ。
「はああああっ!」
「キャーッ!」
エルフリーデの突きをまともに受け、ミナピーは一瞬で吹っ飛んだ。
魔力で威力を殺してあるとはいえ、この威力をまともにくらったら体力の少ないミナピーはひとたまりもない。
すぐさま脇に控えていた回復役の者が駆け寄り、回復魔法をミナピーにかける。
柔らかな光に包まれ傷と痛みを癒したミナピーが、コートの誇りを払いながら立ち上がった。
「……もう、見た目からして勝てるわけありませんよ。エルフリーデさんの方が体格的にも種族的にも、全然有利じゃないですか」
ミナピーが愚痴る。
「違うわ。日々の努力、研鑽が全てよ」
エルフリーデは凛とした口調で言った。
「それもあるでしょうけど、決してそれだけじゃありませんよ。エリフリーデさんなんてケンタウロスタイプで、トップクラスに戦闘向きの種族じゃないですか。剣にしたって槍にしたってセンス抜群だし」
ミナピーが不満気に言う。
「そうやって自分の努力不足を生まれた種族や才能のせいにしてるから、いつまで経っても強くなれないのよ」
エリフリーデの言葉は辛辣なものだった。
「くっ……」
ミナピーは悔しそうに唇を噛んだ。
ついこの前まではそこまで実力差がないように感じていたが、このところ、エルフリーデは急激に実力を上げたようだ。
「相性相性! 気にすんなって! 俺だってエリフリーデには勝てないし!」
見物していた隊長のロシーボがミナピーを励ます。しかし、大して慰めにはならなかった。
◆
その後、ミナピーはロシーボからの命令で、とある内偵調査の任務に就いた。
元々、魔導探偵の心得があったからミナピーが命じられたのだ。
調べていく中で偶然にも、エルフリーデが禁止されている強化処理を受けた強化戦士であることを知ったのだ。
この組織に入る前から元々強化済みであれば、黙っていればグレーゾーンだ。
だが、エルフリーデの場合は、組織に入った後、管轄従者への昇格試験に推薦されなかった後の時期に強化処理を受けている。完全にアウトだ。
もちろん、この内偵調査には、エルフリーデは全く関係ない。別件を調査している過程で、思わぬ方面から偶然知ることになったというだけである。
◆
その後、ミナピーは内偵調査の任務を終え、通常任務に戻ることとなった。
エルフリーデのことをとやかく言うつもりはなかった。
『強化冥界人』になるなど並大抵の覚悟ではできないことだ。二度と普通の冥界人には戻れないのだし、副作用も十分に考えられる。
そこまでして力を得たい、やむにやまれぬ事情があるのだろう。実は、この前の調査でその事情の片鱗には触れていたのだが、調査の目的とは関係ないのであえて調べる必要がなかったし、興味もない。
しかし。
ウィーナ隊の訓練風景。エルフリーデが平従者達に厳しい稽古をつけている。
そして、きつい稽古で音を上げる部下に対して「甘いわよ! そんなことでどうするの!」と、いつもの凛とした、正に戦乙女たらん態度で叱咤しているのを見る。
強化処理を受けることで手に入れた、鍛錬とは無縁のただ与えられただけの力を振りかざし、格下の平従者達に日々の鍛錬の重要性を説いているのだ。
ミナピーは、内心、エルフリーデのことを嫌な女だと思ってしまった。
自分には関係ないことだが。
人は人、自分は自分。
自分は、一般的に習得が難しいと言われる情報魔法・通信魔法に精通している。
エリフリーデにはできない働きが自分にはできる。それを大切にしてみようとミナピーは思った。
自分の所属している隊の、隊長のように。
<終>
やるせなき脱力神番外編 ロシーボ隊 断片集 伊達サクット @datesakutto
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