第26話 猫人、戦いに臨む
俺たちが「
ノールチェが暴れまわる被害は日に日に広がり、ヴァッサロ高原にある村の人々が避難を始める中、いよいよクエスト開始の日がやって来た。
「
「それじゃ、『
イヴァーノが集まった冒険者、俺を含めた総勢17名に呼びかけると、それぞれのパーティーから返事が返ってきた。
「うちは全員いるぜ」
「『
「私のところも問題ないわ」
「『
「
それぞれのパーティーから声が上がったのを確認したイヴァーノが、改めてその場の全員に向き直る。
「うん。それじゃ改めて。僕が『青雲の勇者』イヴァーノ・ディ・ビアージョ。今回の『
そう話しながら、イヴァーノが隣に立つ背の高い女性に目を向けた。
「今更話すまでもないことだと思うけれど、僕たち4パーティーが今回の作戦の要になる。この
そう話すイヴァーノが、ちらと視線を広場の端へと向ける。そちらではもう一方の集団を統括するパーティーのリーダーが、今回の
当然、どのパーティーもAランク以上の精鋭だ。メンバーもほとんどがA級以上、B級なのは俺とマヤを除くと5人もいない。なんならアンブロシーニ帝国以外のパーティーだって集まっている。
それだけの精鋭を集めて、それでもなお簡単には鎮圧できないだろうと見られているのが、ノールチェだ。イヴァーノも真剣な表情で言う。
「それだけ、ノールチェさんは強い。それだけの冒険者が集まっても、僕のスキルをもってしても、皆を殺さないで帰還させられるかは分からない。きっと
そう話す彼に、異を唱えるものは一人もいない。
神獣とはそれほどまでに強く、賢く、とんでもない相手なのだ。魔王軍の幹部である
加えて、イヴァーノには有名な、「
今回は、それがあったとしても厳しいのだ。何人、ノールチェの爪の前に命を散らすか分からない。しかしそれでも、イヴァーノは自信に満ちた表情で胸を叩く。
「でも、僕は皆がこの仕事をやり抜いて、その名前を世界に響かせられるって信じてる。頑張ろう!!」
「「おぉぉーっ!!」」
彼の言葉に、冒険者たちが声を上げながら拳を突き上げた。それを確認して微笑みながら、イヴァーノはもう一グループの冒険者の方にベルナデッタと共に向かっていく。彼がやってきただけで、向こうの集団からも歓声が上がっていた。
それを見ていたアンベルが、感心したように腕組みして口を開く。
「さすがだな」
「すげーな……勇者の言葉って、あんなに
彼女の後ろで、俺ははーっと息を吐き出した。
勇者と共に依頼を行うことどころか、勇者を間近で見ること自体、今までなかった俺だ。勇者の
ヒューホが俺の手を握ったまま、俺の顔を見上げて笑う。
「ビト君は今までパーティーがCランクだったから、あまり勇者と言う存在を意識したことが無かったかもしれないね」
「すごいのよ。イヴァーノさんが一緒だと、絶対勝てるって思えるんだから」
マヤも俺の方を見ながらニコリと笑った。
なるほど、勇者とはただ、国家に認められた有力な冒険者というだけではないのだ。こうして他の冒険者を勝てるように導き、気持ちを奮い立たせることも役目なのだ。
アンベルが、他のグループの冒険者を鼓舞するイヴァーノを見ながら話す。
「
彼女の言葉に、目を見開きながら俺は聞き入る。そして視線は、自然とイヴァーノの方へと向かっていった。
今までずっと雲の上の存在だった勇者。心のどこかで、ただ国に認められただけで威張っているやつら、と思っている部分も若干はあったけれど。こうして実際に顔を合わせ、話を聞いていると、そんなことは無いんだなと実感する。
だが、逆に言えば、このクエストは勇者が出てくる必要がある程の重要案件だ。勇者に同行するマヤはともかくとして、俺はそこまでの立場にはない。
「でも、いいのか? 俺はこないだまでC級だったのに、こんな大きなクエストに……他の連中は誰もかれもA級やS級だろ」
不安に思いながらアンベルへと視線を戻すと、俺の問いかけに返事を返してくるのは隣のヒューホだった。片目をつむりながら小さく笑う。
「そこは心配いらないさ。この
「あたしとアンベルは前線に出てノールチェ様とぶつかることになるけど、心配しなくても大丈夫よ。あたしたちの強さは知ってるでしょ?」
エルセも一緒になってにっこりと笑った。
今回の
アンベルとエルセは前衛に入ってノールチェと直接ぶつかるチーム、ヒューホは前衛の後ろについて回復補佐するチームに入る。俺と違って三人は、S級になって長い。チームの中でも頼りにされていた。
三人とも、間違いなく強い。しかし今回に関しては、強いからと言って安心はできない。
「そうだけど……死なないでくれよ。三人とも俺の
「はは、ビトの側から仲間と言われるとは嬉しいことだ」
俺が漏らした言葉を聞いて、からからとアンベルが笑った。
今更、仲間なんて口に出して言うのもこそばゆくはあるが、死んでもらいたくないのは事実なのだ。やっと見つけた俺の居場所だ。
視線を落とす俺の頭を、アンベルの大きな手がくしゃりと撫でる。
「心配するな。ノールチェ殿には誰も殺されない。私たちも誰も殺させない」
フードの上から優しく俺を撫でるアンベルを、俺はそっと見上げた。鋭く切れ長になった瞳が、優しく細められて俺を見ている。
そのまま、真っすぐに俺を見据えながら彼女は言った。
「だがな、ビト。いざという時は臆さず、お前も力を振るえ。隣に
「……ああ」
アンベルの言葉に、静かに返事を返す。
俺は前線には立たない。立たないけれど、戦場に立つのは一緒だ。ならば力を振るわないでどうする。
太陽が徐々に上ってきて、ヴァヴァッソーリ山の山肌を明るく照らしている。決戦の時は、すぐそこに迫っていた。
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