十三章 「ときめき、あふれる」
帰り道のことだった。
私達は今手を繋いで歩いていた。
付き合ってすぐで進展がありすぎるかもしれないけど、手をつなぎたいなと思ったら、水篠さんの手が私の手を包んでいた。
今同じふうに感じていたんだとただそれだけで嬉しくなった。
こんな風にこれからも二人で嬉しい気持ちを積み重ねていきたい。
「ねぇ、これからは『春斗君』って呼んでいい?」
私はニコニコしながら聞いた。
呼び方を変えることに憧れていた。より親しくなった気がするから。
普通の恋愛に憧れていた。
私は今まで恋愛は、自分を偽ったり無理をしてばかりだった。
自分のしたいこともろくに言えなかった。
だから、こうやって話したいことを自然と話せる相手に出会えたことは本当に嬉しい。
確かに十二歳も年上だけど、『春斗さん』だとよそよそしい気がした。
それに私達はいい意味で、年齢差を感じないほど仲がよかった。
「いいですよ。じゃあ僕も『葵』って呼びますね」
「嬉しい。あと、その喋り方! 丁寧語じゃなくていいんだよ。そもそも春斗君のほうが年上なんだし」
これはずっと気になってることだった。
春斗君は誰に対しても丁寧な言葉だった。
でも、私には気兼ねなく話してほしかった。私には気を使わないでありのままでいてほしかった。
お互いに我慢もせず、素の自分でいられる関係になりたかった。
片一方だけが我慢しているのもなんか違う気がした。
もちろん、相手を思いやる気持ちは大切だけど。
「あっ、これは癖のようなもので。ごめんね。うん、今後はそうするよ」
「そうそう。その方がいい」
私は満足して、また歩き始めた。
二人の恋がこれからも進展することを祈った。
「ところで、なんで私の出店のお手伝いをしようと思ってくれたの?」
それは未だに謎だった。
私と春斗君の間に何か関係性があった覚えはない。
なぜ突然あんなに優しくしてくれたのだろう。
以前どこかで会っていたのだろうか。
それとも、何か縁があったのだろうか。
「それは、まだ秘密だよ」
春斗君は、少し驚いた顔をしていた。
「また秘密か。今度は、いつ話してくれるの?」
私はワクワクしていた。
こんなにときめくなんて、想像もしてなかった。
恋するってすごい。
何もかもがキラキラして見える。
「そうだなー。出店に戻ったら話すよ」
「楽しみにしてるね」
私は早く出店につかないかなと胸が弾んでいた。
私は明らかに舞い上がっていた。
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