五章 「プチデート?」
お店はだんだんと出来上がってきた。
しかし、まだ問題は残っていた。
「言いにくいのですが、葵さんの服装変えてみませんか」
ある日水篠さんは少し遠慮がちに、私の方を見て言った。
「ん?」
私は髪をさわりながら、聞き返した。
「かなり個性的というか、万人受けしないというか……」
私は今うさぎが骨付き肉を食べている姿がプリントされた長袖に、短パン姿だ。
他にもペンギンがパラグライダーしてるのとかとか色々な変わったものを持っている。
人と違うのが好きだった。
同じなんておもしろくない。
「えー、これかなり気に入ってるのに」
「いや、悪いとは言ってないですよ。ただ正直に言うと、怪しくて人が店に来にくいかなと思います」
人が来ないと言われると、私のこだわりも少しは捨てないといけないと思う。
涙を流すためだから仕方ない。
「じゃあ、今度一緒に買い物に行こうよ」
「買い物に? 僕とですか?」
水篠さんは珍しく困っていた。
「うん、だって私どんな服が出店に合ってるかかわからないし。水篠さんが選んでよ」
「あぁー、そういう意味ですか。はい、それなら一緒に行きますよ」
そういう意味以外に他にどういう意味があるのだろうと思った。
しかし、そこで私はそこではっと気づいた。
大人の男女が二人っきりで出かけることを、デートと一般的に呼ぶのではないだろうかと。
つまりは、私は無意識に水篠さんをデートに誘っていたことになる。
急に顔が熱くなってきた。
だから「あっ、もちろん、水篠さんが嫌じゃなければよ」と早口で伝えた。
水篠さんはそれにも返事してくれたけど、その後少しだけ変な空気が流れたのだった。
買い物の日。
私はあの日からずっとデートを意識してしまって、ドキドキしていた。
いつも出店で会っているのに、別の場所で会うとなるとなんだか恥ずかしかった。
店の前の並木道では、紅葉がきれいに色づいていた。
服を買うお店は、普段私が行く若者向けのお店よりかなり大人な雰囲気のする店だった。
店員さんもどこか品があった。
そのお店で、水篠さんが服を真剣に選んで、私が次から次に試着していった。
何着か試着して、ニットの鮮やかな単色のワンピースをいくつか買った。
それらは私が普段選ばないような大人な感じの服だった。水色とかピンクで色は可愛らしいけど、どこか落ち着いていた。
「ねぇ、ピアスはしてもいい?」
服を買ったあとで、ミルクティーを飲みながら私は水篠さんに聞いた。
服はいいけど、ピアスはどうしても譲れなかった。
着けていたかった。
「はい。せっかくきれいなんですから」
「うっ、うん」
きれいと言われて、胸が確かにドキッと音をたてた。
それがなぜかはわからない。異性に初めて言われたわけでもない。
その時水篠さんの言葉が、ストレートに心に響いた。
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