二章 「出会い」
次の日のことだった。
私は運命的な出会いをする。
それは私の求めているものを運んできてくれるのだけど、この時点では私はまだ何も気づいていない。
まだ何も知らない。
暗闇の中、風が吹き付けてくる。
今日は昨日より寒くて、私は黒のコートを羽織っている。
私は今日もピアスをつけている。ピアスは毎日つけたいというこだわりが私にはある。
昨日と同じように、出店で声をあげていると、ある男性がゆっくりとした口調で声をかけてきた。
その男性の身長は、170センチある私よりずっと高く、180センチを越えていると思う。
髪は黒の短髪で、爽やかな印象だ。
穏やかな細い目をしていて、全体的に優しい雰囲気をしている。
こんな雰囲気をもった人は、初めてだった。
なんだか胸が、味わったことのないフワッとする感覚に陥った。
これは一体なんだろう。
「どんな話でも買い取ってくれるんですか?」
とてもきれいな声だった。
「えっ?」
「お話を買い取ってくれる店なんですよね?」
私は予想外の言葉に、わたわたした。
「そう。いや、そういうわけではなくて、決まってる」
私は早口で答えた。
ちょっと子どもっぽく見られたかなと、すぐに後悔した。
私は二十歳だけど、いつも年齢より若く見れられる。
はっきりした大きな目と、胸まである長い黒のストレートヘアーは、全体的に大人な感じを醸し出している。
けれど、話すととたんに、子供っぽく見られる。このおぼつかないしゃべり方と態度が一番の原因だと思う。
つまりは、見た目と中身のギャップが激しいのだ。
ギャップもいい方向に働かないときもある。
だって店を出している店主が子供っぽかったら、少し頼りないだろう。
「えっ、そうなんですか? じゃあどんな話ならいいんですか??」
不思議そうな瞳で私を見てくる。
この人、目の色がきれいとふと気づいた。薄い蒼色をしている。
はっと我に帰った。
見ず知らずの男性の顔をまじまじ見てしまうなんてどうしたのだろう。
私はある理由である話を求めていた。それはしっかりと決まっている。
「涙する話です」
今度ははっきりと大人っぽく聞こえるように話した。
「なるほど。じゃあそれを、どっかに書いていましたか?」
男性は、私の出店をぐるっと見回した。
「あっ、書いてなかったし、言ってなかった」
私は、すっかりそういうことを忘れていた。
私はよく単純ミスをやらかしてしまう。気を付けても意識しても、ミスばかりしてしまう。
これはもう癖のようで、治らない気がする。
「それじゃあ、誰にも伝わらないですよ。そもそも話をお金で買い取るなんて怪しい出店には、誰も寄ってこないですよ?」
きっと嫌味で言ったのではないと思う。
この男性からはそんなとげとげしたものが感じられなかった。
普通に教えてくれているのだろう。
「それは、困る」
なんだか彼の言葉に説得力があった。
だからこんなにも繁華街の路地裏には人がいるのに、誰一人として寄っても来ないのかと納得してしまったからだ。
「何で困るんですか?」
「それは、言えない」
私が涙する話を求めてるわけを言っても、きっと笑われるだけだから。
「そうですか。なら聞かないですよ」
男性は、そっとそう言った。
それがあまりにも意外な反応でビックリした。
根掘り葉掘り聞かれるかと思った。
でも、この人は、話したくないなら聞かないと言った。
「ところで、僕が声かけたのはこの店の宣伝を手伝わせてくれないかと思ったからなんです。色々他にも問題点いっぱいありますし」
「えっ、別にいいけど、」
「じゃあ決まりですね。あっ、僕は、水篠
私が話し終わる前に、彼は手を差し出してきた。
「私は、笑宮 葵です」
「葵さんですね。これからよろしくお願いしますね」
こうして、私達は出会ったのだった。
繁華街の路地裏には、まるで似合わないとびきりの優しさを持った彼と。
お互いのことは全然知らない。
それでもなんだかこの人は信じられると瞬時に思った。
空を見上げると、星が綺麗に輝いていた。
それはまるで私達を照らしているようだった。
彼が泣いていたことに私はその時気づかなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます