第3章

第13話 夢を見た

 目が覚めた。

 少女が心配そうに見つめている。

「優里さん」

 充は一語一語、確かめていくように声を出していく。

「大丈夫?酷くうなされてたけど」

 優里が心配そうに、しかし柔らかく声を掛ける。

「そうですか。嫌な夢を見ていたみたいです」

 充の額には、異常な程の汗が滲んでいる。打ち付けたような痛みが体に走っている。

「きっと疲れてるんだよ」

「そうかもしれません」

 軽く深呼吸をすると、新鮮な空気が身体中を駆け巡り、全身を走る痛みが徐々に薄れていく。

「いつから寝てましたか」

「いつからかな。ごめんね。覚えてないかな。でも、そんなに時間は経ってない気もするけど」

「そう、ですよね」

 いつから眠ってしまっていたのだろうか。充は考えようとして、途中で止めた。いつからであろうとそれは同じことだ。

「どんな夢を見たの」

「いや、それは」

 充は口ごもる。

「思い出したくないよね。でもほら、嫌な夢は口に出すと、気持ちが軽くなるって聞いたことあるし、声に出してみれば」

 そうだろうか。もしかしたら、そういうこともあるのかもしれない。充はゆっくりと話し出す。

「あまり詳しくは覚えていないのですが。体に強い衝撃が走って。あの、何か車のようなものに轢かれるような、そんな夢です」

 思い出して、頭がくらくらと揺れる。

「そう。それは、嫌な夢だ」

 優里は本当に恐怖を感じているように言った。

「私も……」

 そこまで言って、優里は止まる。声が出なくなってしまったのだろうか、かなり掠れて聞こえる。

「私も、同じ。車に轢かれた」

 消え入りそうな声だ。

 充が声を出すよりも早く、優里が続ける。やはりその声は消え入りそうで、話の終わりとともに、優里という少女の存在まで、消え去ってしまうのではないかという気さえした。

「私は……、私……、誰だっけ……」

 優里の顔色が真っ青に染まっていく。

 生気が抜けたように同じことを繰り返している。

「優里さん!」

 充は気が狂ったような優里を、正気に戻そうと大きな声で呼びかける。

 何度も、何度も、同じ言葉を繰り返す優里をこちら側に戻そうと、充も負けないように、何度も何度も呼びかける。

「優里さん!大丈夫ですか!」

 しかしその甲斐も虚しく、優里の顔色はさらに悪くなるばかりである。

 とうとう優里は、何度も同じことを繰り返した後、最後に短い悲鳴を上げて、その場に崩れ落ちた。それは最期を迎えた壊れた玩具のようであった。

「優里さん!」

 充は必死に優里の肩をさする。こういうとき何をすれば良いか全くわからなかった。ただひたすら声をかけて、体をゆする。何度そうしても優里から応答は返ってこない。

 何とかしなければ、一心で走り出した。

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