第12話 雨は好き?

 目眩がする。

 充は、筒野の言葉を噛み砕くように反芻する。その一語一語が重みをもって襲いかかる。その重圧に堪えかねて、無意識の底へと沈み落ちた。

 耳鳴りがする。雨の音だ。地面を抉るような豪雨。憂鬱と不安とが同時に襲いかかる。

 呆然と外を眺めていると、背後から声がした。

「充君、何見てるの」

 長く艶やかな髪を揺らして、少女が声をかける。

「いえ、凄い雨ですね」

 充は自然と答える。

「そうだね。凄い雨だね。ねぇ、充君、雨は好き?」

 少女は子供を見つめるよな表情で聞く。

「そうですね。僕はどちらかというと好きです。心が洗われるようで何だか好きです。でも、これだけ強いと帰るのも大変ですね」

「確かに、そうだね。私にはあまり関係ないことだけど」

 少女は少しだけ視線を窓の外の空へと向ける。

「私は、雨は嫌いかな。雨の日は、いつも思い出してしまうんだ」

 少女は雨に向かって言う。

「何を思い出すんですか?」

 理由を聞いてはいけない気がしたが、聞かずにはいられなかった。

 相変わらず雨は降り止まない。

「いや、ちょっとね」

 濁すようにして答えたその少女の様子は、開けてはならぬ部屋に扉をしたようであった。

 雷鳴が轟を上げる。少女が何か続けて言ったが、その声は無常にもかき消されてしまった。

 耳鳴りがする。雷鳴のせいだろうか。少女の声が耳鳴りと混じり、不協和音となる。同時に、視界が激しく揺れる。心臓が予期せぬ動きをする。乱れた呼吸を整えるため立ち上がろうとしたところで、意識が途切れる。体が、床に叩きつけられるのを感じた。

 遠くから音が迫ってくる。大地を切り裂くような音。その悲鳴にも似た音が背後に迫り、全身に衝撃が走った。

 声を上げることさえもできない。何が起きたのだろうか。無意識が現実を理解することを拒む。

 声がした。

 私、死んじゃったんだ。

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