第8話 新学期の始まり

 充にとって長い冬休みが明けた。新しい学期が始まり、寒さは一層増したようでもある。

 午前中で学校が終わり、部活に励む生徒、友人と連れ立って街へ繰り出す生徒をよそに、真っ先に図書室へと向かう。

 図書室は今日も森閑としている。

 充は待った。また優里が突然姿を見せてくれるのではないかと、期待しながら。

 待ちながら、優里について知る手がかりが何かないか探した。

 優里が話していた本のタイトルを思い出し、それが本棚にあるか調べた。思い出せる限り思い出して、机の上に棚から取り出した本を並べる。

 多種多様なジャンルの本が並ぶ。そこに規則性はない。本のタイトルと貸出表を照らし合わせて、優里という名前の生徒がいないか探す。しかし優里という二文字を見つけることは叶わなかった。

 以前、優里が抱えていた本を床に落としてしまったことがあったことを思い出した。あの時、借りた本を元に戻そうとしていたのかと思ったが、そうではなかったらしい。

 あれだけ本を読む人が一冊も借りていないなんてあるのだろうか。充は、強い不信感を抱いた。

 そして図書委員の仕事を、ほとんど自分しかしていないことを思い出した。確かにその間に、優里が本を借りたことは一度もなかった。つまるところ、ここには手がかりがないということだ。

 充は、しかし諦めなかった。諦めなければ、必ず優里に繋がるものを得られるとの強い確信があった。

 結局その日、図書室を訪れる者は一人もいなかった。

 優里と会うのは図書室の中だけ。そういう決まりであった。その約束を破りたくはない。だけど、それ以上に、優里に会いたい。約束を破ってしまったことは、頭を下げて謝るしかない。

 充は、優里に会いたいという一心であった。そこに優里の気持ちを考える余地はなかった。図書室だけでしか会わない理由、その理由を必ず説明すると言ったこと。そのことに、考えを巡らせることをしなかった。

 優里と会わなければならない。

 今までに感じたことがないほどの熱意に突き動かされ、優里の面影を追い求めた。

しかし、手がかりは相変わらず何も掴めなかった。朝は開門とほぼ同時に登校し、放課後は図書室で待ち続けた。

 優里は一度も現れなかった。

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