第2章

第7話 木の葉散る冬

 木から葉が落ち、風が身に染みる。心まで冷やすような寒い冬が来た。

 季節の移り変わりに合わせて服装も変わる。タンスの奥に仕舞い込んでいた薄手のセーターでは、寒さはしのげない。

 優里に会えないことが、この寒さを一層、心地悪いものに変えた。

 またひょっこり現れるだろ。もう来ないのではないかと思う一方で、そんな楽観的な考えが巡る。

 そうした楽観と悲観の間を堂々巡りしているうちに、冬休みになってしまった。

 優里と会えない憂鬱な日々が続き、そのまま到来した冬休みは、充にとって突然のことのように思えた。

 優里の明るい笑顔、時折見せる思い詰めた表情、充君と優しく呼びかける声、たわいもない本の話。それらの記憶が、逆さにした砂時計のようにこぼれ落ちてくる。

 涙が溢れる。

 どんよりとした曇り空から、雨が滴り落ちる。

 空が泣いている。

 充は自分の目からこぼれ落ちるものを、空から降り注ぐ雨に隠し、感情に蓋をした。

 退屈で憂鬱な冬休みであった。

 冬休み中、充は正気の抜けたように、何もしなかった。時折、本を手にしてはすぐに閉じた。それを繰り返すと、夜になっていた。夜になったから寝た。朝になったから起きた。ただ、それだけであった。

 そうしているうちに、充は一体何をしているのかわからなくなった。

 なぜこんなにも、悲しく胸が締め付けられるのであろうか。いつからこうなってしまったのであろうか。

 充の頭に一人の少女が浮かぶ。

 整えられた前髪。真珠のように透き通った目。真実を見透かすような眼差しには、充の心を満たすくらいの光が溢れている。

 本が大好きな、優里という名の少女。

 知っていることはそれだけ。それだけなのに、何物にも変え難い物語を図書室で、確かに二人で紡いだ。

 優里と最後に会ったのは、一体いつであっただろうか。

 遠い昔のように感じられた。

 充に大きな恐怖が襲いかかる。

 優里とのかけがえのない時間を忘れてしまいそうになったことに恐れを感じた。

 どうしてこんなに大切なことを忘れかけていたのだろうか。憂鬱という感情に飲み込まれて、居場所をそこに求めてしまっていた。

 忘れたくない。また会いたい。

 充は強く願った。忘れてしまわぬうちに、もう一度会わなければならない。強い衝動に突き動かされる。待っているばかりではいけない。動き出さなければ。もう二度と手を離してしまわぬように。

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