第6話 秘密の箱庭

それから優里はよく図書室を訪れるようになった。来る日に規則はない。他に用事があるのだろう、毎日訪れてくるわけではない。それでも二、三日に一日は必ず姿を見せた。

 優里が現れるのは、いつも決まって充が意識を他所に向けている時であった。

 相変わらず、会話の内容はほとんどが本にまつわることであった。それでも、少しずつプライベートな会話をするようになっていった。

 充はそのことを嬉しく思った。しかし、優里はあまり自分のことを話したくないようであった。その様子を何となく察知して、充は意識して本以外の話をしないように努めた。

 こうして会うのは図書室だけ、という決まり。その決まりごとで、返って二人は自由になる。

 お互いに共通の話題である本を通して、二人はどこへでも飛んでいけた。二人だけの世界。誰にも邪魔をされない秘密の箱庭。

 充はそんな二人の物語を、そっと本棚にしまいたいと強く願った。

 しかし、そんな時間は長くは続かない。

 優里はある日を境に、姿を見せなくなってしまった。

 充には、優里が来なくなってしまった理由の検討をつけることも、想像をすることもできなかった。

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