第一章 それから桜色の入学式。 -8-



「そっか。じゃあまた夜だね。昼は家族と食べ行くし」

「うん。あ、知ってる? 時輪ではクラスは成績順で分けられるんだよ。一年は入試の成績順だね」

「へえ! 唯久は何組?」


「フフン。俺は学年トップだからね。一番頭いいんだぜ」

 唯久は誇らしげにVサインを作る。

「! 頭いいんだ……」

「へへん。芽依の勉強も見てあげるよ」

「頼もしい」

 会長も、うんうんと頷く。

「ボランティア部の人たちは何組なの?」


 芽依の好奇心が疼いている。

「部長は二組で、莉子と哉都は三組だよ」

「へえ。みんな結構、頭いいんだ」

「テスト期間は水啾深荘の談話室で勉強会だからなあ。一時的な能力値であることは否めない」

「談話室で……楽しそう」


 みんなでワイワイ勉強会なんて中学の時はやらなかった。そうか、今年からはみんなの輪に入って勉強会に参加できるのか。今から唇が震えた。

 唯久の言っていた通り、昇降口には既に、クラス割りが貼り出されていた。


 全部で五クラス。芽依は……二組だ。

(惜しい)

 一年のクラスは本棟四階だと書いてあった。芽依は持ってきた上履きを出し、ローファーを下駄箱に入れて一息ついた。小指が喜んでいる……。

 一階にクラスはないらしい。数学準備室や国語準備室など、サブの部屋が並んでいて、突き当りが調理室だった。


 まだたっぷり時間はあるのだし、芽依は校舎見学もかねて各階ごとに廊下を歩いてみることにした。

 二階は三年生の教室が並ぶ。

(部長と会長は三年だよね)

 今の時期の生徒会長は三年生のはず。今年選ばれる生徒会長が二年生だから。


 二階の突き当たりは視聴覚室になっていて、三階は二年生の教室だ。試しに一組を覗いてみた。今日が入学式だからか、黒板は何度も消されてピカピカの緑色だ。それなのにゴミ箱にはお菓子の袋がたくさん捨ててあって、隠しきれていない普段の姿に、芽依はなぜだか安心してしまった。


 四階は想像通り、しんと静まり返っていた。

 芽依のクラスは二組。黒板には『入学おめでとう』の文字と絵の上手い誰かが描いた桜の絵……に押しやられて隅っこに貼られた座席表。

 さすがにこれは成績順ではなく、名前順だった。芽依の『み』はうしろ……廊下側の一番前だ。

(すごい、渡辺が三人いる)

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