第一章 それから桜色の入学式。 -7-
「お前、一年なのになんで入学式の手伝いしてんの?」
来深哉都が不思議そうな面持ちで問いかける。
「暇だし……ただ見てるよりは、一緒に準備した方が気分的にもいいかなあって思いまして」
「変なやつだな。唯久から聞いたけど、水啾深荘に住むってマジか?」
「はあ。なんでそんなに不思議そうな顔なんですか?」
「だってあそこ、超不便じゃん。なんでわざわざそこ選んだんだよ」
哉都の不可解そうな、桜に紛れるナマコでも見る目つき。
(……気持ちは分かる)
水啾深荘は破茶滅茶に不便な立地だ。
「お父さんのオススメなんです。お父さんも高校は時輪で、水啾深荘で一人暮らししてたんだって」
「あー、和月さんか」
納得、と哉都は声に滲ませる。
「! 知ってるんですか?」
(会ったことは……ないはずだけど)
意に反し、哉都はあっさりと「あるぜ」と頷いた。
「有名だしな。時輪のチェ・ゲバラって評判だ」
「か、革命家……?」
「お前、娘なのに知らねぇの? この学校の部活数が多いのも変な行事があんのも……全部和月さんの采配だってよ」
「変な行事……?」
「直近であんのは立夏会とかだな」
和月の高校時代について、芽依が知っていることは、数えてみれば、ごく最近教わったことだけ。片手で足りてしまう情報だ。
(案外、知らないんだ。知らなかったんだ……)
芽依の知らない和月のかつての姿。どんな高校生だったのだろう。異名が残るほどやらかしているのは確実だ。
(チェ・ゲバラ……)
芽依は笑いを堪え切れずに笑う。
植木鉢は校舎の壁に沿うように並べられていた。これを正門から昇降口までの道に並べるらしい。芽依は紫色の花が咲く鉢を持ち、桜の木の下へ並べる。正門では会長が入学式の立て看板の位置を指示していた。
やがて並べ終わった鉢を眺め、時計を確認した。時間はまだある。登校してくる新入生もいない。芽依は体育館へもついて行こうかと迷った。会長の横で一緒に立て看板の位置を吟味しはじめた唯久のところへ行き、
「唯久。私、体育館にも行って平気?」
「もう一センチ左……体育館は入学式にとっておけば? 紅白幕とかは主役として見る方がテンション上がるしね。でもそっかー、まだ時間あるんだもんな」
「あと三十分くらいは暇なんだ。教室に行ってもいいけど……唯久たちは体育館でお開き?」
「ううん。片づけもあるし、一年の誘導とかもするよ。うん、ちょっと早いけど教室で待ってた方がいいのかなあ。クラス割りもさっき昇降口に貼ってるの見た」
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