第一章 それから桜色の入学式。 -6-



「初めまして、宮野芽依さん。僕は綿切聖夜わたぎりせいや、ボランティア部の部長です」


 黒髪の、綿切聖夜と名乗った彼は軽くおじぎをした。釣られて芽依もおじぎする。午後の図書館で本を読んでいそうな人だ。黒ぶち眼鏡が似合うだろう、大人しい面持ち。


 会長とよく似ている雰囲気ではあったけれど、決定的に違うのは……会長が五月の風だとすれば、部長は六月の雨。紫陽花が似合うと思う。


「ちなみに、俺はボランティア部の副部長だよ。芽依もボランティア部どう?」

 唯久が期待した眼差しで言う。

「部活は仮入部期間に決めるよ」


「初めまして! 私は浩野莉子ひろのりこ、唯久と同学年だよ。こっちの来深哉都くみかなとも一緒。この四人がボランティア部なんだー。芽依ちゃんもどう? 楽しいよ?」

「部活はあとで、仮入部期間に、じっくり決めます」


 莉子は「えぇ~」と唇をとがらせる。眉毛よりもずっと上で切った前髪は、彼女の明るい性格に映えて可愛かった。茶色が過ぎて、もはや白っぽい髪色も、莉子にはよく似合う。ロングで巻かれたポニーテールで活発さが伺い知れた。

 来深哉都と呼ばれた男子は、赤茶の髪に銀のピアスをつけた不良っぽい男子だ。


 ボランティア部、予想に反して面白そうな部活だ。口をついて出そうになった言葉を、芽依は引き留めるように飲みこんだ。口に出せば、まき網漁業が始まるのは目に見える。

 ボランティア部は下駄箱から離れた場所にいた。前方で先生らしき人が話しはじめた声が届く。「新入生の見本となるような行動を……」と口を酸っぱくして言っている。


 当の新入生が混じっていてもいいものなのか……。少し腰が引けたのと同時に、学校らしい先生の言葉を客観的に聞いているのが愉快だった。


 やがて先生の話も終わり、各分担も発表されて、生徒は散り散りになった。ボランティア部は正門から昇降口までを繋ぐ、桜並木に植木鉢を並べる担当で、会長たち生徒会役員は正門の装飾だった。どの担当も終わり次第、体育館に集まってパイプ椅子を並べて終了だそうだ。

 別棟裏の畑に植木鉢があるとのことで、唯久たちは移動する。芽依もどうせなので手伝うことにして、一緒に畑の方へ向かう。


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