第一章 それから桜色の入学式。 -5-
ロータリーを左に迂回し、駅から見ると正面に続く道に入る。車通りのあまりない通学路でホッとした。
芽依たち三人以外、通学路を歩く生徒はいない。ときおり抜かしていくスーツの自転車と、反対に、芽依たちが追い越すのは、犬の散歩をするお爺さん。水啾深荘付近よりは、あか抜けた場所とはいえ、のどかで気の緩む場所だ。
会長と唯久が話し続ける中、芽依は初めてで歩き慣れないローファーと格闘していた。約十分、道なりに左へ曲がったら高校だ。桜を散らす四月の風に、会長が目を眇める。
入学式の看板はまだ出ておらず、普段通りの――普段を知らないけど――高校の正門に芽依の頬は高揚した。
唯久と会長は正門をまたぎ、ふり返る。
「高校生最初の一歩、どうぞ!」
唯久の満面の笑み。
(あぁ、ドキドキする)
真新しい制服に、少し窮屈な靴に、空っぽの鞄を抱いて。桜の花びらが、立ち止まる芽依を追い越して先を行く。
深呼吸をして。右足を踏み出した。
「入学おめでとうー!」
唯久が両手を天に掲げ、バンザイをする。会長の優しい眼差し。
「今日からよろしくお願いします!」
がらんと朝の眠りから覚めつつある時輪高校の、馴染んだ色の校舎まで、桜並木が続いていく。桜を見上げ、影の上を歩き、芽依は少しずつ実感を伴った高校生の色合いに浸った。
正門から見て校舎は寝そべるHの字。どうやら昇降口は、向かい合ってHの足元二か所にあるらしい。校庭は右側に広く、左はこぢんまりとした畑になっていた。それ系の部活か委員会か、もしくは先生が世話をしているのだろう。
「唯久たちは今からなにをするの?」
「本棟昇降口の前で準備前の集まりがあるんだ。そのあとは分担ごとに入学式の準備だけど、準備はしなくていいからおいでよ、部の人とか紹介したいしね。一人で教室にいたら暇でしょ?」
「もちろん。そのつもりだった」
一番乗りの一人きりの教室と、唯久の友達に会うのとでは、選ぶのは圧倒的に後者だ。
「よし、じゃあ行こうか」
本棟と呼ばれたのは校庭側、正門から見て右側の棟だった。見るところによると既に結構な人数が集まっていた。
その中で、唯久と会長に気付いて手をふる人たちが数人。
「芽依、紹介するね。この三人がボランティア部なんだ。俺を合わせて四人」
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