第一章 それから桜色の入学式。 -9-
廊下側一番前となると、正面からこの教室に向かってくる人、もれなく全員と目が合うポジションだ。
(初日からこれは……ちょっとキツい、けど)
和月ならその席を十分に活用するのが目に見える。芽依も習って廊下から誰かこないかと目を外へ逃がした。
それから十五分。まだ集合には早い時間ではあるけれど、ようやく階段を上ってくる足音が聞こえてきた。
芽依と同じ新入生らしく、新品で糊のきいた制服だ。長い黒髪をなびかせて、うつむいていた顔を持ち上げた。目が合った。
「おはよう。何組の人?」
「あ……二組だよ。同じクラスみたいだね」
そう言って彼女は芽依に笑いかけた。うん、仲よくなれそう。
彼女は教室に入ってから座席表を見て、真ん中の列の真ん中の席にカバンを置いた。
「宮野芽依ちゃん……で合ってる? 私は
「たかはる? いいね、そのあだ名。私は普通に芽依でいいよ」
「アハハ、うん! 芽依、よろしくね」
「こちらこそ」
春海はカバンを置いて芽依の席の隣に座った。どうせまだ人はこないし、春海によると、その席は女の子だから平気、とのこと。
「男子でも平気だよ。ヤンキーじゃなきゃね」
「名前でヤンキーかは分からないからなあ。分かりやすくさ、ごっつい名前とかだったら座らないってこともできるけど」
「夜露死苦みたいな」
春海は口の左下にほくろがあって、笑うと印象的な口元だった。少しつり目でスッキリとした面持ちが、ある種の格好よさを醸している。
しばらく春海と話していたら、段々と廊下も一年生で溢れ、賑やかになった。
「おーい、席につけー」
そう言いながら教室に入ってきたのは四十代くらいの男の先生だった。眠たそうな目は元からだろう、猫背気味の背中から哀愁が漂っている。
春海が自分の席に着くのと同時に、廊下から駆けこんできた女子が芽依の隣に座る。短いスカートに明るい茶髪だ。ぱっちり二重に、ニコニコとした笑みは同性であっても感心してしまうほど、キラキラと輝いて見えた。
「まずは、入学おめでとう。俺は君たち二組の担任になった」
先生はそのまま入学式の説明をした。今から体育館に行って、終わったらこの教室で解散だそうだ。
芽依たちは廊下に順番に並び、担任の先導で体育館へと向かった。体育館は渡り廊下を過ぎて別棟一階、昇降口とは反対側の突き当たりが入り口になっていた。
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