第一章 引っ越し。 -8-
「いや、和月の奢りさ」
「え! 和月さんのお寿司とか幻の宝具並み!」
ハグの腕をそのまま上へ持ち上げ、万歳をする唯久はさながら犬のようだった。ふわふわしててオーバーリアクションで、周りの雰囲気が明るくなる。
初めて会った人なのに、なんだかずっと前から友達だったような、親しみを感じるのは彼の人懐こさ故なのだろう。唯久は時輪の二年になるらしいし、一足先に学校を詳しく知っている人と知り合えたのは頼もしい。
夕飯はお寿司。それだけで一人暮らしがキラキラ輝いてしまうのだから芽依も単純だ。
李斗さんは椅子に座ると、テーブルの上で指を組んで芽依に向き直る。なにかを察知した唯久も大人しく隣に座り直した。
「うーんと、なにから話そうかな……」
「電車は二時間に一本、終電は十八時だよ。学校の時は気をつけないと、隣駅から野原を一時間歩く羽目だから気をつけること!」
「えっ……うそぉ」
「はは、変わらないな」
和月の笑い声は確信犯だ。
遡って十八、十六、十四、十二、十、八、六。
学校行くのが始発なんて部活魂さながらだ。
(それよりも終電十八時ってことは、夢見てた食べ歩きの放課後が……泡だ。泡まみれだ)
芽依はがっくりと項垂れる。
そんな芽依を気づかってか、李斗さんが困り眉で手を打った。
「そうそう、電車といえば。ここの住人の話をしちゃうね」
そう言って、すぐに「あー、でも」とつけ加える。
「まずは改めて自己紹介をしようかな。私は李斗、便利屋をやってるんだ」
「ここの管理人じゃないんですか?」
「知り合いに頼まれてね。これも便利屋の仕事の一つだよ。普段は水啾深荘の管理の他に、家事代行とか、ご老人の話し相手とか、色々」
「俺は中学の時からここに住んでるけど、その時から李斗さんはここの管理人してたよね」
唯久はそんなに前から水啾深荘に住んでいるのか。不便な毎日がもうかれこれ……少なくとも二年以上は続いていることになる。
(大変だなあ)
「便利屋っていろんなことするんですね」
「うん。便利屋だから。頼まれればなんでもするよ。芽依ちゃんも、なにかあれば」
そう言って李斗さんはB5の黄色い紙を出した。便利屋のチラシだ。李斗さんの名前と、携帯の番号も書いてある。
「なにかあれば、ここに電話してね。私の携帯に繋がるから。和月の代わりの保護者になったんだし、遠慮はいらないよ。頼りないかもしれないけど」
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