第一章 引っ越し。 -7-
「寿司頼んだぞ。引っ越し祝いだ」
「え、やった!」
遅れて階段からやってきた和月は、芽依の隣に座って携帯をポケットにしまう。
「でもなんで……李斗さん、ここって自炊、じゃないんですか?」
「うーん、基本は。でもなんていうか……ここの住民たちはもう家族の一員みたいなものだから、作っちゃうんだよね」
「お金とかは? タダじゃないですよね」
「あ、食堂制。一人三百円ね。いらない時は事前に言ってくれたらいいから」
アパートというよりは寮に似ている。でも正直なところ、料理は今後の課題で悩みの種だったから、すごく助かる。この場所ももう、談話室というより食堂だ。
「今日のお寿司はパパの奢りでしょ?」
「まーな。どんと食え」
「イエーイ」
(……引越し祝いってことは、今日から住むのか……?)
喜んだのも束の間、芽依が引っかかった疑問に頭を悩ませていると、階段の方からドタバタと足音が聞こえてきた。
「帰ってきたみたいだね」
「ここに住んでる人?」
「うん。芽衣ちゃんと同じ、時輪の子だよ」
李斗さんがそう言って、おりしも。その子は部屋に駆けこんできた。
「! 誰?」
彼はそう叫ぶと背負っていた緑色のリュックを放る。芽衣の右斜め前に座ると、追加の煎茶を淹れに行くのだろう、隣の李斗さんが入れかわりで立ち上がった。
染められて薄い茶色になっている髪がふわふわと空気に遊んでいる。
(時輪は染めるのいいのかな……)
耳に穴は開いてない。
人懐っこい笑みが好奇心全開で芽依に向けられて少したじろいだ。
「あ……宮野芽依です。ここに引っ越してきました」
「和月さんの娘さんかあ! すごいな、どんどん楽しくなりそうだ。俺、水野唯久。今年の春から時輪の二年になるんだ。よろしくな」
「パ……お父さんのこと知ってるの?」
「へぇー。いいよ無理してお父さんって言わなくても。パパ大歓迎だよ」
(くっ。セーフと思ったのにバレてる)
芽依は笑いを堪える和月を睨む。唯久の父親を気取ったその物言いに芽依は心窩、みぞおちを殴りたくなった。
「聞かなかったフリしてくれればいいのに!」
「ここに住むことになったってのはつまり、家族になったって意味なんだ。家族に遠慮はいらないぞ芽依。さあレッツ、パパ!」
「揶揄うな!」
両腕をバッと広げてハグの体勢をとる唯久。それを嗜めるように、李斗さんが煎茶を持って戻ってきた。
「唯久、今日は歓迎会だからお寿司だよ」
「やった! 李斗さん太っ腹!」
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