第一章 引っ越し。 -6-



「そー。懐かしい懐かしい。正確に二十年前だけどな」

「まずは部屋を案内しようか。今このアパートには五部屋あって、うち三部屋が埋まってるんだ。住人にはそのうち、談話室にいれば会えるから。芽依ちゃんの部屋は一階の真ん中だよ。和月と同じ部屋だね」

 和月と一緒。談話室も同じ家具の配置で。まるでここだけ時が止まってるみたいだ。


(――新しいパパ、つまり私)

 二十年前の止まった時計が、錆をうならせて、また時を刻もうとする。歪な再びの一音。


 本当に、一人暮らしだ。


 李斗さんに案内されて芽依は自分の部屋の前に立つ。

 101号室。

 芽依は深呼吸をして、受け取った鈍色の鍵で部屋を開けた。


「どう? いい部屋でしょ。掃除したから綺麗だよ」

 うしろから李斗さんが声をかける。


 間取りは談話室と同じだ。備えつけの家具がある。右奥に勉強机、その隣に本棚。ベッドがないだけ部屋も広い。

「いやー、懐かしいなあ。当時のままじゃないか」

 感嘆する和月の歩みを抜かし、芽依は部屋の奥へと走った。


「わあ、庭つきだ!」

 驚いたのは、はき出し窓の向こうだ。一階には二階と違って、ベランダではなく庭がついていた。もちろん草だらけで手入れが必要だけど、これは嬉しい。わくわくする。

(野菜とか育てちゃう)


 そして嬉しいことに、携帯の方位磁石で調べたら東向きの部屋だった。ご来光だ。布団は北枕にならないよう、事前に調べて寝る向きを決めておく。これを夜にやるのは中々怖い。


 畳の手前側の押し入れには布団が入っていた。李斗さんの気づかいが嬉しい。

 一通り部屋を見終わって、芽依たちはまた、談話室へ戻ることになった。詳しい話はそこでするらしい。


 談話室で芽依は新しく淹れてもらった煎茶を飲んで、窓の外に目を移す。相変わらずの雑草原だけど、時輪線、高校の最寄り駅にも繋がる路線の終点に近い場所のはずだ。ただ、芽衣はここ淵ヶ沼ふちがぬま駅行き』の電車をほとんど見たことがない。こっち方面の大抵の列車は、淵ヶ沼駅の一つ手前『御園口みそのぐち駅』を終点とすることが多く、淵ヶ沼行きはレアだ。

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