第一章 引っ越し。 -5-
入って正面は大きなはき出し窓があり、ちょっとしたベランダと一面草だらけの外が見える。手前にはテーブルたちがあって、床は廊下よりは明るい色のフローリング、右に扉が二つ――多分風呂とトイレだ。扉の間隔が狭い――その奥にキッチン。正面がテーブルと椅子の大量にあるフローリングで、左側が四畳くらいの畳。そこにも別で座敷机と、青みの強いくすんだ紫の座布団がある。しかも座布団は隅にストックが積まれている。
一体何人がこの部屋を一度に訪問してくるというのだろう……。
李斗という男性はキッチンで急須に葉っぱを入れていた。
「好きなところに座って。煎茶でいいかな」
「俺、いつもコーヒー派だって言ってるのになあ。李斗は毎回聞きながら煎茶しか淹れないよな」
「そうだっけ?」
「確信犯だろ」
和月は一番キッチンに近い椅子に座り、芽依もその正面に座る。李斗さんも涼しい顔で、煎茶を三人分注いでいる。
李斗さんが注いだ煎茶はほんのりと抹茶の匂いがした。飲むと、思っていたより苦くない。
(煎茶ってもっとこう、全力で渋いものだと思ってた……美味しい)
「気に入ってくれたみたいでよかった。和月も見習ってよ」
「言うなぁ。前はもっと優しかったのに……」
「親みたいに懐かしまない。あの時は耐性がなかっただけだよ。和月みたいに自由奔放な友達なんて、それまでいなかったから」
「フフ。最高に楽しくて嬉しいんだろ」
和月はお猪口で酒を一気呑みするみたく呑み干す。文句を言う割には豪快な呑みっぷり。
李斗さんは和月の隣に座ると、芽依に向き直った。
「本当は初めましてじゃないんだけど。ここの管理人をしている李斗です。よろしくね」
「宮野芽依です。……ごめんなさい、いつ会ったのか全然思い出せなくて……」
「ううん、覚えてなくて当然だよ。まだ芽依ちゃんが幼稚園の頃だから」
そう言った李斗さんの声はなぐさめる響きすら醸し、さらに申し訳なさが積まれた。
「この部屋はね、一応、談話室っていう区切りになってて、住んでる人たちが交流をする場所なんだ。和月が学生の頃も、この部屋はあったんだよ。家具はさすがに買い替えてるものの方が多いけど、配置は変わらない」
「二十うん年前から……」
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