第31話 約束は大切な人を守りたい時だけ破れ5
道中何やら紙に視線を落とし込んで真剣に悩んでいるサンドラの姿があった。
別に話すこともないが、知人としてここは素通りするわけにはいかんだろう。
「すまん!俺ちょっとサンドラと話をしてくる!」
「僕は別にかまいませんけど…蘭さんは?」
「…問題ない、不貞行為さえしなければ」
何やら蘭からは一瞬殺気みたいなものを感じたが気のせいだろう。
二人には先に帰ってもらうことにした。
近づいてみると何やら「ここは駄目ね」やら「ここは論外でしょ?」やら独り言を言っていた。
「ようサンドラ、何してんだ?」
「ああ、あんたね。今は邪魔しないでほしいんだけど」
「へぇ、そんなに集中してんのか。どれ、俺にも何か手伝えるかもしれないだろ?言うだけ言ってみろよ」
「んー、ま、それもそうかもね。実は私どの部活に入ろうか迷っているの。野球部がいいかなと思ったんだけどあいにく男子しか入れないみたいで。だからテニス部がいいかなと思ったんだけど部長以外は最悪よ。あそこは。でもそれ以外の部活はみんなただ運動しているだけ、熱血的な何かがないわ」
「ほう、熱血的な何かか」
うまく言語化はできないが言いたいことは分かる。
つまりこいつは俺がさっき体験してきたような熱血さ、夕日に向かって走るような熱血さが欲しいのだろう。
「すまんな、俺じゃあ力になれそうにない」
「ああそう、ま、別にわかっていたからいいけど。」
そうか、分かっていたのか…
しかし、俺には実際力になれそうもないので、サンドラに「最終下校時間に気を付けろよ」と言い残しその場を去った。
このころの俺はまだ知る由もなかった。
ここで無理にでもテニス部に入らせなかったことから悲運にも激動の運命の歯車が回ってしまったことに。
翌朝、俺は目覚ましの音で起きた。
体にはまだ疲れが残っているようで、一向に動き出そうとはしなかった。
それでも何とか立ち上がると、窓のカーテンを開け、もう少し眠りたそうな俺の脳に喝を入れてやった。
俺は一人分の朝ご飯をチャチャっと作るとそれを掻き込み、歯磨き洗顔をしてハンガーにかけてある制服を着て、学校へと出発した。
今日も春麗な晴日である。
道中では蘭にあった。
どうやら話を聞く限り俺をここで待っていたらしい。
「…昨日あの人とは何を話したの?」
彼女は無表情ながら凄みを聞かせて言う。
俺はその凄みに少し圧倒されながらこう答えた。
「い、いや、別に変なことはしてないよ。ただ部活動の相談に乗っただけだ」
「…そう……同じ部活に入るとか?」
また凄みを付けて言う。
蘭よ、ただの会話にそこまで凄みを付けるものではないぞ。
そんないちいち凄みを付けられていたらこっち側がドギマギしちまう。
「いやいや、そんなんじゃないな。あくまで相談だ。」
「…そう」
そしてそのあと彼女は満足したようで黙り込んだ。
そのあとの登校中の会話はいつも通り俺がペラペラしゃべってそれを蘭が適当に流す、たまに蘭が話し出すの2パターンであった。
そう、いつも通り、つまり平穏に時は過ぎていくのだった。
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