第30話 約束は大切な人を守りたい時だけ破れ4
俺はおかしな事態に陥っていた。
練習場に来たところまでは良い。
だがなんで俺がラケットを握っているんだ?
確か同意したのはエリックと蘭の二人だけだったはずだ。
何がこうさせたんだ。
思い返せ。
確かあの後はこう続いたはずだ。
「しかし、いいラケットを持っていますね。」
「わかるかい?いや、実はこれ結構微調整したんだよ。いろいろ思考錯誤した結果305グラムが俺の体にはちょうどいいってことに気づいてね。」
「…305グラム、標準よりちょっと重め。振り回すのにそれなりの筋力がいるがインパクトは強くなる。」
「いや、ほんとにそうなんだよ。インパクトの強さと振り回しやすさの相関係数を取ったらこれがちょうどよくてね」
「なるほど。それほどテニスに心血を注がれているんですね」
「まぁね。それより、君はテニスについてどうなんだい?」
アレク先輩の視線は俺に注がれていた。
俺はもちろんテニスに詳しくなかったのでこう答えた。
「いやぁ、あんまり知らないですね」
「知らない!?それは良くないなぁ……じゃあ今日テニスの面白さをわからせてあげるよ」
そして今に至る。
あのくそ部長……余計な気を使いやがって……
「何をぼーっとしているんだ!もうボールが行ってしまったじゃないか!」
アレク先輩が怒りながら言う。
さっきの優しそうな先輩とは千差万別、テニスとなると目に燃え盛る炎を宿すのだった。
「ほら!足を動かす!」
あまりのキャラの落差に驚きつつも、打つことには始まらないのでボールを追いかけた。
ベン!
よし!打てた!初心者にしては上出来だろう!
「フォームが違う!肩の力は抜いて腰で振りぬく!」
えぇ…
この地獄の練習は俺のフォームが良くなるまで、空はオレンジ色に染まりカラスが巣に帰り始めるまで続いた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「うむ!たいした根性だ!普通の人間だったらどこかでやめていただろう!」
「はぁ、途中でやめていいなら…はぁ、先に言ってくださいよ…はぁ…」
「ハッハッハ!確かに言ってなかったな!うむ!それはすまなかった!しかしそれでもたいした根性だ!どうだ!うちの部活に入らないか?」
「いや絶対嫌です」
「ハッハッハ!その歯に衣着せぬ物言いも気に入ったぞ!」
俺の勇姿を見ていた二人に帰ろうと目配せで伝えると、二人は帰る準備をし始めた。
「ハッハッハ!いつでも待っているからな!少年!」
俺たちの背中に向かってアレク先輩はそう呼びかけた。
俺たちはさっさとその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます