第14話 野次馬だって当事者です6
入学式の後はクラス分けだった。
一応蘭の名前も探しては見たが、俺のクラスにはいなかった。
俺は指定された席に着き、この後に来るであろう担任の到着を待っていた。
そんな時、後ろからトントンと肩をたたかれた。
振り返るとそこには金髪のツインテールで顔は端正な女がいた。
そいつはどこかで見覚えのある顔だった。
「久しぶりね。いや、さっきぶりと言ったほうが正しいのかしら。にしてもあんた、ここに首席で入学していたのね。入学式のあいさつをする代表者の名前を聞いた時にはびっくりしたわ。まあ、内容に関してはテンプレートばかりで飽き飽きするものだったけど」
俺に対してさも知人かのようにぺらぺらと喋ってくるこいつはいったい誰なんだ。
しかも言葉の節々にとげがある。
いや、しかし顔はどこかで見覚えがある。
さらにこの言葉のとげとげしさも初めてではないような……
……そうか!あの痴漢された少女を助けていた女か!
「やぁ、ええっと…サンドラさん、だっけか。さっきぶりだね。」
「あんたちょっと忘れてたでしょ。」
俺は一瞬ぎくりとした。
だがすぐ気を取り直して
「いやいや、そんなわけないよ。何せさっきぶりだしね。」
「……ふーん、ま、いいけど。」
どうやらうまく誤魔化せたようだ。
その後に来た担任が言ったことはこれからこの高校で暮らしていく上での注意事項であり、内容はどこでも言われるであろう平々凡々としたものだった。
そのあと、教材一式を渡され、自己紹介の時間となった。
俺は自己紹介が苦手である。
なぜならそれだけで今後が決まってしまうからである。
平々凡々な自己紹介をしたら、そいつは平凡な奴だと思われ、かといって変な自己紹介をしたら周りから敬遠されてしまうからである。
しかし、だからと言ってその二つ以外の選択肢が俺の中にあるわけでもなかった。
俺はぎりぎりまでどっちで行くか迷っていたが、変な自己紹介をするような勇気が俺の中には内在しないことに気づき、平凡な自己紹介で済ますことにした。
「ええ、一年A組出席番号15番の柊真です。真って呼んでください。趣味は運動することです。よろしくお願いします。」
およそ運動しているとは思えない体でそんなことを言ったからか一瞬疑われたような気がしたが、まあ問題ないだろう。
しかし、俺のそんな矛盾が小さく見えるほどに、次の自己紹介が変わっていた。
いや、今覚えばこれがこれから起こる俺とその仲間たちの激動の歴史の予兆だったのかもしれない。
もっともこの時の俺はそんなこと予感すらもしてなく、そんな奴もいると思っていただけだったが。
「1年A組出席番号16番のサンドラ・ユーロプスよ。サンドラって呼びなさい。趣味は正義、特技も正義ね。私が来たからにはこのクラスでの悪事は断固として許さないわ。覚悟なさい。」
一瞬クラスがどよめいた。
つまりこいつは正義という独断でこのクラスを支配するということを言ったからだ。
そう宣ったのは誰か。
そいつは先ほどあった痴漢事件で少女を助けた、力で正義を具現した、サンドラと名乗った少女である。
しかし当の本人はそのどよめきを称賛のどよめきだと受け取ったようで堂々としていた。
担任も驚き4割呆れ6割といった感じで次の人へ促した。
俺は小さな声でサンドラを咎めた。
咎めた、と言っても俺たちはそこまで親しいわけではないし、何せ会ってまだ何時間かだから興味本位半分、友達作りという目的半分の当たり障りのないものだったが。
「おいおい、なんてこと言ってんだ。お前、半ば独裁宣言をしたようなもんだぞ。」
俺は慣れていなかったがからかうようにそう言った。
コミュニケーション能力のあるやつはこういうことが起こったら大体そういう風に聞くんだろう?
「独裁?そんなことはしないわ。だってみんなは迷える子羊だもん。あくまで私はそいつらを導いてやるだけだわ。それにクラスのみんなは同意してくれたじゃない。」
「いや、お前なぁ……」
今の彼女には何を言っても無駄そうだった。
というよりも今の俺ではそれ以上会話を広げられなかった。
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