第6話 後悔先に立たず6
俺たちの間にそれといった会話はなかった。
これは俺がほかの人と話すのに久しいのもあるのかもしれないが、彼女が無口なのもあるだろう。
しかし、このまま何も話さずいるのは気まずいので、俺から話すことにした。
「い、いやぁ、しかし、いい天気だねぇ。」
「…今、夜。」
まずい、初手でミスった。このミスをどうにかして取り繕わなくては。
「え、ええっと…ひ、昼のことかな?」
「…今日、曇天。」
まずい、完全に盲点だった。馬鹿って思われただろう。
「…馬鹿となんて会話したくない」なんて言われたら終わりだ。
頭の中で次にどうなるかぐるぐる考えていたが、彼女から言われたのは予想だにしないことだった。
「…ありがとう。」
「……へ?」
「…今日はありがとう。」
俺がどういう意図か把握しあぐねていると彼女は続けて
「…助けてくれなかったら危なかった。」
ああ、さっきの三人衆のことか、あれは別に俺も助けようとしてやったことではないしな。
そこまで感謝されるようなことではない。
「いやいや、あれは助けようとしたというよりかはたまたまああなっただけだから感謝なんていいよ。」
「…いや、それでもありがとう。」
ここまで感謝されるとは思っていなかったためこれにどう返事しようか迷っていると
「…勘違いされやすいの」
ん?何が?
「…私、勘違いされやすいの」
「…いつもこんな風に黙っているからほかの人を見下しているって。」
「…勉強もなまじっかできるからそれでさらに勘違いされて。」
まあ確かにこんなに無口だったら勘違いはされそうだな。
さっきの三人衆はそういうことか。
俺はこの応答に困った。
経験上ここで「そんなことないよ」などと軽口をぬかすのは即席の救いにしかならないことを知っているからだ。
かといって俺に彼女のこの状況を打開するような妙案があるわけがなく、ただ二人の間に沈黙を流すだけだったが。
しかし、だからと言ってこの状況を黙って放棄するほどの勇気もなかった。
いや、彼女の境遇が俺に重なったのもあるのかもしれない。
俺だって前世で学校に行っていたときはあまりの優秀さに周りから孤立していたのだ。
そんな時、そういえばあいつは俺に話しかけてきてくれたんだよな。
俺は昔日の思い出を想起し、一人感傷に浸る。
おっといけない、今は彼女になんて答えるのか考えなくては。
そう思い直し思考を再開したのである。
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